第十九話
王都の中心に、外へ向かうマナの『流れ』の大きな渦を作る。
それが私の考えた最後の復讐の計画で、もっとも重要な部分だった。
王都のあちこちにある、マナを集める無数の地下配水塔を止めることは難しい。止められたとしても、その後周囲にどれほど影響を及ぼすか分からないからだ。
最悪、無辜の民に死人が出るのは、私の望むところではない。今まで知らず知らずのうちに散々マナを奪われて、あまつさえ命も奪われるなんてあんまりだからだ。
ならば、無数の地下配水塔が集めたマナを、外に向かう大きな渦の『流れ』を作って王都中に緩やかに拡散すればどうか。
これなら急激なマナの変化は生まれにくく、どこかで堰き止められれば私が確認して『流れ』をスムーズにすればいい。もし、人為的にマナの『流れ』を再度集めようとする動きがあれば、私としては諸悪の根源に近づけるのだから願ったりだ。
もっとも、大聖堂や王城のマナを止めた時点でその動きがない以上、おそらく誰も私の計画を阻止することはできない。ひょっとすると、魔法を使う貴族たち——おそらく収奪されたマナの終着点にいる利用者——は地下配水塔に仕組まれたマナの『流れ』を集める装置に関する技術を、とっくの昔に失っているのかもしれない。
それならそれで、どちらに転んでも私にとって都合がよかった。
私の、最後の復讐の計画はこうだ。
私の作る『マナの大渦』は、王都に住まう万人へ自然のマナを公平に分配する。その『流れ』を阻止しようものなら、私はその犯人をマナの『流れ』を辿って突き止め、大聖堂や王城と同じようにするだけだ。
何年もかかるだろうが、王都にいる『灰色女』は数を減らすだろう。貴族たちは魔力を維持できず、魔法の継承も途絶えるかもしれない。
もうすでに魔法や魔法道具に頼らずやっていこうという潮流は生まれている。政治的には王城騎士団をはじめ魔法に関係ない部署の隆盛、個人のミクロ視点でも公爵家令嬢とはいえ『灰色女』の私と騎士アイメル様の結婚、その萌芽は現れている。
この流れを止めてはならない。
私はまず我が国の魔法の頂点、権威である聖女から魔法を奪い、ただの女にした。
次に、魔法道具を使えなくして、魔法全般に頼っていた人々が魔法から距離を置く致命的なきっかけを作った。
最後に、王都のマナの『流れ』を均一にして、歪なマナの収奪で魔法や魔力の量で優越していた人々のよりどころを確実に壊す。
本当は、最後のマナの収奪を目に見える形にして公表する術はないかと思ったが、それは贅沢な望みだろう。体制は緩やかに変わらなくてはならない、人々がマナの急激な変化を受け入れられないように、だ。
ほら、もうとっくに渦は生まれた。
私と同じ、マナの『流れ』を操る人間が現れないかぎり、『マナの大渦』が止まることはない。
あの老婆が私にかけた、『灰色女』がマナの『流れ』を知覚して動かせるようになる呪文も、私は誰かにかけるつもりはない。
こうして、運命の歯車は新しく作られ、動き出す。




