対栗林義長大作戦
岡見家の『今孔明』と呼ばれる軍師、栗林義長がどうやら俺たちと同じタイムスリップをしてきた現代人、しかも自衛官らしいと判明した。
俺たちは佐竹家常陸南部の方面司令の役割をしている多賀谷重経殿に具申して兵を一旦谷田部城に戻し、今後について相談することにした。
「…なら相馬典薬殿は栗林義長がお主らと同じ出自というのか。ならばお主らも敵か。」
「いえ修理太夫(重経)殿、そうではありません。我らは彼を知らず、むしろ驚いているのです。」
「うーむ。話を詳しく聞きたい所だな。…となればここよりも手子生のほうが色々揃っていてよかろう?」
と重経殿が言い出したので俺たちは谷田部に押さえの兵を置いて俺の居城とされている手子生城にさらに引いた。
手子生城に俺は真田店長を始めホムセンの主だって面々を呼び寄せた。そして軍議にちゃっかり座って参加している先の俺達の主君、小田氏治公。
「小田の殿はなぜここに?」
「修理太夫殿、俺は今、ここ手子生の客将だ。そういうことで。」
どういうことか俺にもわからないのだが、とにかく相談は始まった。
「…なんと。栗林義長が使う銃は射程が5倍はあるのだと?」
と多賀谷重経殿は唸った。
「はい。我らが使っている火縄銃ではだいたい有効射程は1町(110mぐらい)ほど。それに対してかの者が装備している自動小銃は5町でも届きます。」
「5町とな!」
「しかもかの者は小舟から3町はある我らを安々と狙撃しており、相当な手練かと。」
「そこの真田殿、それに対抗する銃を貴殿なら作れようか。」
と重経殿は真田店長に話を振った。
「流石に現代の自動小銃並のは…薬莢や雷管の製造が安定できればミニエー銃に近いものは、と言いたいところですがCNCで銃身はくり抜けても機関部やらちゃんとした銃弾やら、になりますと苦しいです。」
と手の内を明かす。
「ぐぬぬ。貴殿でもあの栗林義長の銃は無理か。」
「しかし修理太夫殿。」
と俺は続けた。
「その義長も自分で銃を作ることは出来ないと思います。あれは義長が持ち込んだものでしょう。」
「そうなのか。」
「これまでの目撃報告などを総合しても栗林義長は単独行動と思います。」
「ならば夜討ちで討ち取ってしまえば。」
と重経殿は言い出すが
「いえ、それは極めて困難だと思います。彼のような訓練された軍人が十分な装備を持っていれば警戒されて近づくのも難しいかと。」
「しかしコチラの届かぬ距離から安安と撃ってくるのでは話にならぬ。」
「そこでです。」
と声を挙げたのは久しぶりに登場のホムセン軍略担当、織部君だ。
「修理太夫様は先の佐竹のお館様が小田家を降伏させた戦いを覚えておいでか。」
「もちろんだ。俺も参加していたのだからな。」
「その際お館様(このばあいは義重)は兵を分けて手子生や土浦を同時に攻め立てました。その理由は小田家は氏治公がいる限り、家臣の闘争心が燃え上がって手強くなるからです。同時に拠点を攻め、氏治公が出陣できなく、もしくは今回のようにどこかに拘束されて身動きが取れなくなれば、小田の家臣は優秀とはいえ火事場の馬鹿力を発揮することはありませんでした。」
「俺抜きでは家臣が力が出ない、ということか。」
と氏治様。
「そのとおりです。氏治様のいない小田軍は暴走こそしませんがやはり凡庸かと。」
「うーん。」
「その作戦は歴史上でもしばしば見られました。一番わかり易いものですとフランスのナポレオンを欧州諸国が攻めた時のものです。」
「おお、『大陸軍は世界最強!』か。」
と話を聞いていた多賀谷重経殿が嬉しそうに口を挟んでくる。どうもホムセンに置いてあった『獅子の時代』を読みふけってファンになっていたらしい。
「おお多賀谷の倅、お前あのすばらしさが分かるか!」
と応じる氏治様。
「「『大陸軍は』『世界最強!』」」
と声を合わせて盛り上がる。
「そのナポレオンが破れたのは。」
と織部君が口を挟むと
「そりゃロシアの冬将軍のせいでしょう。なにかホムセンの兵器で雪を突然降らせるものでもあるのか?」
と重経殿。
「いやさすがにその様なものはありませんが…」
(なんだないのか、とがっかりする二人)
「それもありますが、一番大きな作戦は『ナポレオンとダブーとは戦わないで他を叩く。』です。」
「それはつまり。」
「ナポレオンとその麾下の元帥は概ね優秀ですが、完全不敗となりますとダヴーのみです。つまりナポレオン本人の直卒軍とダヴーを避ければ他の将軍相手なら勝てる。そちらにナポレオンが向かったらまた他所を叩き、フランス軍を削りつつ疲弊させたわけです。そしてナポレオンは最後は勇猛ながらちょっと単純で頭が足りなそうなネイに頼る羽目になりました。」
「でも『獅子の時代』は『銀河英雄伝説』のような空想科学世界を描いたものであろう?」
と出てくるテクノロジーの差にSFと思い込んでいる氏治様。
「さにあらず、まあ別世界の史書を元にした話とお考えください。三国志演義のようなものです。」
「…どこかの世界に『大陸軍は世界最強!』とやる恐るべき陸軍が実在するのか…」
「となれば我らが必死に探せば『一子相伝の暗殺拳』の遣い手も見つかるやもしれませんな。」
と小田氏治と多賀谷重経が仲良く話し込んでいる。いや、『北斗の拳』は流石に史実入ってないと思う。199x年には核戦争なかったし。
「それはともかく、栗林義長の功績を調べますと、どうやら彼が『ワンマン・アーミー』状態で敵を狙撃し、爆薬で吹き飛ばし…など軍略というより『あいつ一人で全部いいんじゃないかな。』をやっていると考えられます。」
「「なのか。」」
二人の声が揃った。
「そこでです。」
と織部君が続ける。
「つまりナポレオンを避けたプロイセンやロシアのように、我々も栗林義長を見たら相手にせずさっさと撤退し、栗林義長がいない所を攻めればよいのです。」
「しかし栗林がいない所の保証はどうする?」
「そこはこの無線機がありますゆえ。」
と稲見薬局長。
「無線で栗林が出た所を報告させればいないところは安心して攻め立てられます。」
「しかしそれでは我らがジリ貧ではないのか?」
と重経殿。
「いえ。」
と俺が続けた。
「ジリ貧なのは栗林の方です。なぜなら俺たちの方は銃や弾薬を補給できますが、栗林の持ち込んでいる現代兵器には必ず限りがあります。よって決定的な決着がつかない限り栗林に消耗させていればいつかは弾薬が尽きます。」
「いつかっていつ?」
「それはわかりませぬ…」
と俺は力なく答えた。
とはいえ、俺達は『栗林義長とは正面だって決着を着けない作戦』を実行した。その間に史実なら毒殺されてしまった豊田城主豊田治親様を小田氏治公本人が説得して降伏させ、栗林が暗躍する地域以外を固めることに成功した。
それからもチョロチョロと義長が守る若栗、足高、東林寺などの諸城にちょっかいを出し続けて、義長が東奔西走するようにしむけた。
…そうして3年の時が過ぎ、天正5年(1577年)になったのであった。そろそろ義長の弾薬も怪しくなってきたと期待したい。




