佐竹軍、ホムセンに襲いかかる
手子生城を放棄した俺達はホムセン改造要塞(穂羣城)に立て籠もった。
佐竹義重の軍勢は手子生城に入ってその日は休みを取り、翌日になって穂羣城に向かって出陣したようであった。夜討ち朝駆けでないだけ助かる。
ホムセンの屋上に組まれた鉄骨の櫓に登り、真田店長が周囲を見渡す。
「…こんなたくさんの兵は見たことがないわ。」
「店長上杉が攻めてきた時は小田城で見ただけでしたものね。」
俺が声をかける。
「相馬くん、見たまえ。人がゴミのようだ、じゃなくて見渡す限りの佐竹兵だな。」
ホムセンは西側が深田でその外側は沼地を経て小貝川に望んでいる。そちらの沼地には陣はいないが、小貝川には下妻多賀谷のものと思われる軍船で一杯である。その中でもひときわ金で飾り付けられているド派手な大柄の軍船が多賀谷重経のものだろう。
その他の3方向は台地になっていて、そこには俺たちがホムセンが流れ着いた当初から作っていた堡塁が二重にホムセンを取り巻いていた。そしてその外側には数多くの旗や槍がひしめき合い、佐竹の軍勢が包囲を固めているのであった。
「相手はこちらのことをどう思っているんでしょうね。」
「うーん。少なくと友好的ではないのは確かだな。」
「こちらはホムセン内の非戦闘員を守ることを考えると外郭に回せるのはざっと400人というところですか。」
「テルモピュライの戦いを描いた映画『300』だとペルシア軍は20万でしたっけ?あれよりはマシだね。」
と悠々としている真田店長。そこに稲見薬局長が
「といってもジョン・ウェインの西部劇『アラモ』だと約200対2000で全滅してますけどね。そっちのが近いか。」
嫌なこと言わないで稲見さん。
「ひとまずはいきなり攻めてこないで使者を送ってくるはず。それを待ちましょう。」
と俺がいうと、早速大手門の前に佐竹方の使者が現れた、との報を受けた。
「佐竹常陸介(義重)様の家臣、車丹波である。」
使者は名乗った。佐竹の重臣で猛将で知られる車丹波こと車斯忠だ。
「城代の相馬典薬です。」
「そちがあの典薬か。常陸介様は降伏を望まれている。これがその条件だ。」
と書状を差し出す。
…流石に戦国の世に来て10数年、読める、俺にも読めるぞ毛筆ウネウネ文字。
「開城して穂羣城と手子生城を明け渡し、何処とも知れず去れば命は取らぬ、ですか。
ちょっとこれでは困りますね。」
「元々流れ着いてきた身ならばまた流れればよかろう。」
としゃーしゃーと言放つ車丹波。さすが時勢を読めず関ケ原で西軍につこうとしたり幕府に接収された水戸城を奪おうとしただけはあるぜ。
「では交渉不成立、ということで。」
「おう、では弓矢を馳走しようではないか。」
と降伏交渉は物別れに終わり、俺達はそれぞれの陣に別れた。
程なくして佐竹の陣から鐘、太鼓、法螺貝の音が鳴り響き、兵が土塁の外の堀に近づき、矢が雨のように放たれる。
俺たちは寡兵ながらここはホムセンのホームグラウンドなのである。
各堡塁に設置されたエアコンプレッサー機関砲が火を吹くぜ。火は吹かないけど。流石にガソリンは質が悪くて燃料としては怪しいので、日頃から太陽電池で充電しておいたバッテリー駆動だ。バレると不味いが多分打ちっぱなしだと2時間ぐらいが限界。
とはいえ弓矢や佐竹が山程繰り出してきた(多分1000丁は越えてる)火縄銃よりは射程が長く、アウトレンジで鉄球を降らせる。それと日頃からホムセンにいたメンバーが作り上げていたカタパルトでびょーーんと火のついた布の束(こちらはガソリン使っているので凶悪だ)とか爆裂弾を佐竹の陣に降らせる。
それでも勇猛な佐竹の兵は障子堀に潜り込み、そこから土塁を登ってこようとする…がここは関東ローム層である。ちょっと掘ればベタベタした粘土ばかりなのだ。
ホムセン要塞の土塁はそのベタベタした粘土で表面が覆われており、しかも上には水をまく管を仕組んであった。
よってベトベトする上に滑る。本当に滑る。
滑って手間取っている所を堡塁の上にコンクリとブロックで作った簡易トーチカからこちらはこの時代の火縄銃主体で射撃する。佐竹勢は数にまさるとは言っても星型稜堡のホムセン要塞では少ない兵でも射線を確保できるのだ。
ホムセン本館のまだ生きててよかった太陽光発電で充電した電池と弾薬代わりの鉄球を内郭から外郭のコンプレッサー砲に運んでなんとか射撃に切れ目がないようにし、佐竹の攻撃をどうにか退け続ける。
「相馬センセ、奴らは土塁の攻略が難しいと見て門に兵を集中させるようですね。」
と今回はホムセンの中央に浮かべておけば落とされないので久しぶりにVRゴーグルでドローンを操る稲見薬局長。
「ハハッ!門は殺し間ですからね!」
と俺は答えた。
そう、門は当然ながら虎口になっている。虎口に入れば3方向から射撃が降り注ぐのだ。
竹束などで見を守ろうとすると手榴弾が投げ込まれて中央から吹き飛ばす算段である。
こうして佐竹の猛攻は続いたが、幸い夜になっても決着はつかなかった。
佐竹の侍大将車丹波は夜襲を試みてきたが、これもサーチライトで照らして散々に鉄砲を撃ち追い払い、その日の戦は終わったのであった。どうやら手子生の自動迎撃システムにやられた経験から警戒してくれたらしい。
「佐竹義重本人は陣頭に出てきませんでしたね。」
と俺が真田店長に話しかけると店長は
「そのようですね。まだこちらには兵糧も弾薬もありますが…明日からはコンプレッサーで対抗するよりは銃が主体になりそうです。連続で使って砲身代わりのパイプが怪しくなってきてますな。」
「うーん。こうなると後詰めがないときついところですな。」
と野球軍団の乱馬さん。
「小田原の北条には使者を出したのですが…果たして来てくれるか。」
「我々の運命は北条次第、ですかな。」
「まさか小田のお館様が来るはずはないですしね。」
と俺が言うと一同はハッハッハ、と戦いの中にも関わらず大声で笑った。




