オーダー66,実行される。
「こちら木田余城、小田城、オーダー66を執行せよ。繰り返す。オーダー66を執行せよ。」
「こちら小田城、オーダー66ですか?確認する、本当にオーダー66ですか?」
オーダー66,それはスター・ウォーズで皇帝パルパティーンがクローン兵を使ってジェダイを虐殺する時に出されたオーダー(命令)だ。この場合は裏切るとか虐殺とかそういう意味はないが、この時代の人がわからないで命令できるように俺たちはいくつかのオーダーを取り決めていた。
「間違いない。オーダー66を速やかに実行せよ。」
「ラジャー。」
その夜は木田余城でまんじりともしない夜を送った俺達は翌早朝、実質的な小田家第二の本拠地の土浦城に向かわず、その北西にあってちょうど小田城との間にある藤沢城を目指した。
「もう二三日あれば三村城を落とせたものを。こんなに慌てて撤退してなにもなかったら相馬殿、責任問題ですぞ。」
と折角の勝ち戦を駄目にされた、という感じで渋い顔の重臣菅谷政貞様。
「何もなければ手子生秘蔵の酒とコシヒカリ500石を献上いたします。」
「500石はともかく、酒は楽しみだの!」
と小田の家臣たちは馬上で笑う。
そうするうちに藤沢城にたどり着き、小田の軍勢は入城する。すると
「相馬センセー、オーダー66,正解でしたよー!」
と泣きつくような感じでよろよろと現れたのはホムセンの経理、栗田さんである。小田城居残り組のリーダーを努めていただいたのだ。
「栗田さん、どうしました?」
「無線を受けてすぐ城の脇の宝篋山に登ったんです。するとですね、遠くの方から、ガシャン、ガシャン、とかヒィィ、ヒィィとか馬のいななきのような声がね、無数に聞こえてくるんです。」
…なんか怖い。稲川淳二の怪談みたいに話さないでほしい。
「でね、段々と音が近づいてくるのと一緒にね、来た方にね、チラ、チラって光が見えるんです。もう数え切れないぐらいの光がゆらぁゆらぁ、と。」
だから怖いって。
「そこで私達はね、夜間撮影機能最強のこのスマホでね、光の方を思いっきり拡大して移したんですよ!すると!」
「すると。」
「そこには無数の武士が鬨の声を挙げながら進んでくるんですよ。うぎゃぁあ!」
と差し出されたスマホの画像には大写しになった武士が写っている。さすがは今どきのスマホである。旗印まで見える。
「…竹に雀!まさか。」
「そう、上杉謙信(輝虎)ですよ!」
「…オーダー66は無事実行できましたので?」
「はい。打ち合わせ通りこの様に電子機器で持ち歩けるものは持ってきました。プロジェクターとか置いて来るものは収納ボックスに入れてCICの床下に。上に畳置いて絨毯敷いたから多分気づかれないでしょう。」
そう、俺達は小田城など現代テクノロジーの産物を持ち込んだ城が落とされそうになったらそれらを敵の目から隠すように持ち去ったり隠したりする算段を付けていたのだ。流石にプレハブ自体を撤去、とか太陽光パネル全部持ってくとかは出来ないが、中に入ったら机と椅子ぐらいしか残っていないはずだ。この時代の人に現代テクノロジーの存在をしられるのは鷹揚な小田家ならともかく、普通は戦国自衛隊全滅コースまっしぐらだと思うのだ。
「オーダー66の後半は?」
「それも無事に。城の守備隊の皆さんもここ藤沢に来てます。」
それは一通の書状だった。小田家は史実では9回小田城を落とされているのだが(この世界だと俺たちがその内2回は防いだ。)その度に城に残った武将が奮戦して討ち死にしているのだ。
ただでさえ少ない人材が減るのは、小田のような弱小大名にとっては致命的だ。なので、小田氏治公がよって気分がいい時に書状を書かせておいたのだ。その内容は
「ここは三国志の諸葛孔明が用いた空城の計を用いる。抵抗せず速やかに城を離れて藤沢城に向かえ。これは『今孔明』天羽源鉄の献策である。」
と、後ろで騒ぎがするので振り向くと、小田城を守備していた飯塚美濃守様が、菅谷政貞様や氏治様に責められていた。
「なんぞ相手と戦わずいきなり逃げ出すか!」
「それはお館様の書状があったからじゃ!」
「お館様?それはまことで?」
「どれ見せてみよ…確かにこれは俺の書状。」
「ほら見たことか。」
「だからといってすごすごと逃げ出すと・・・」
と言いかけた菅谷様に俺は話しかけた。
「お言葉ながら飯塚様の行動は兵を失わずこれからの戦いにつながる立派な行動であったかと。」
「本城を落とされておいて立派もあるか?」
「これを御覧ください。」
と俺は栗田さんが移してきたスマホとデジカメの偵察映像を見せた。
「…この旗印は上杉輝虎!前回より数が多いではないか!」
「上杉本隊は8000ほどと思われますが、暗くてわかりにくいですが、結城、多賀谷、真壁、佐竹等など諸氏も参陣しており、総計は推定で25000−30000。」
「さ、3万だと!」
「300の守備兵でどうできましょうか。例えこちらの本隊が予め入場できていたとしても3千対3万。」
「そうはいっても安々と小田城を失うのは武門の意地が通らぬ…」
と腕を組んで唸る氏治様。
「ここは私におまかせを。上杉の侵攻をここまで許したのは私の責任でもあります。必ずや小田城を取り返してきましょう。」
と大見得を切って俺は小田城に向かうのだった。いや、たしかに忍者軍団ほぼ連れ出して残りは手子生やホムセンの警備を頼んでいたから北の警戒が緩かったのは責任あると思ったの。




