太田資正、佐竹家に仕官する
という訳で第二部開幕です。これまでとはちょっと、ひと味とは言わないけど半味ぐらいは違うとかも。
手子生城に戻った俺を出迎えたのはさくらさんだった。
「翔太郎さん!…なんですかその姫君は。」
「滝夜叉姫じゃ。この相馬の者に世話になる。よろしゅう。」
「いったいどこの姫様ですか?」
さくらさんもあっけに取られているようである。
「それが一族を滅ぼされて遠い山城の貴船神社に隠れていたのをここまで流されてきたそうだ…」
「その割には服が綺麗ですね。」
とちょっと怖いやり取りがあったが、とにかく行き先がない、ということで我が屋敷に置いてもらうのを納得してもらった。
先の戦の働きを認めてもらい、俺の知行は300石ということになった。滝夜叉姫を迎えたこともあって屋敷は元いたところから手子生の城下に一回り広いものを築いてもらった。
300石となると家臣も必要だろう…ということで付けられたのは…なんと話し合いおばさんの夫、太田角兵衛氏だった。
「旦那、よろしゅう。」
「まさか角兵衛さんが俺の家臣扱いになるとは。」
「カミさんも家をもらって喜んでおりまっせ。『夢にまで見た庭付き一戸建て』って。」
…そうなのか。屋敷の中にいくつか板葺きの…この時代としては普通だが現代の目で見ると粗末な家を作ったのだ。
屋敷の移動などでバタバタしていると、剣聖塚原卜伝先生が訪ねてきた。
「ながらく楽しませてもらったが、儂もそろそろ鹿島に帰ろうと思ってな。」
「先生には本当にお世話になりました。」
「ほっほっほ。とてもお主には免許皆伝はやれんがな。この地には斎藤伝鬼房を残していくゆえ、役に立とう。」
「お心遣い本当にありがとうございます。」
先に旅立っていった天海様に続いて見知った顔がこの地を離れていく事になり、一抹の寂しさを感じた。
その夜、屋敷で黄昏れていると滝夜叉姫が後ろからいきなり抱きついてきた。
「おほほ。お主!そんなにしょぼくれた顔をしていると漢が下がるでおじゃる!」
というといきなり顔を捕まれ、ブチューと濃厚な接吻をされた。
目を白黒させながら
「姫!ご乱心か!落ち着かれよ!」
とどっかの家老のようなセリフを口走ると
「よいよい。ここ筑波と言えば『歌垣』の本場じゃ。好きおうた男女は自由に交わるものじゃ!」
「って姫様姫様でしょ!それで大丈夫なんですか。」
「妾が大丈夫と言っておる。」
「というかさくらさんはどうしたんですか!女同士でお世話はお願いしていたはず。」
「おほほほほ。そこはのう。お主の友人の稲見氏に『新しい環境で緊張して眠れぬ』と相談してな。この『ハルシオン』という錠剤をもらったのじゃ。ほれ、続きの間でぐっすり寝ておる。」
…稲見薬局長。いくら知らなかったとは言えなんというものを。
「という訳でこんばんは妾が相手じゃ!」
と服を脱ぎ捨てて…
俺は我慢できなかった。すまぬ。さくらさん。
次の朝、隣で平和な寝息を立てている滝夜叉姫を見ながら、これからどうしよう、と思いを巡らせていると、また天井から声がした。
「旦那、昨晩もえらくお楽しみだったようで。」
「うわぁぁ!と思えば飛加藤さんか!テグスと鳴子張り巡らせていたのに!」
「あんなもの俺にかかれば児戯同然。」
「うううぅぅぅ。」
「それはともかく、先に旦那に探るように言われた件、旦那の言う通りでしたぜ。」
「…となるとやはり。」
「岩槻城主の太田資正、岩槻城を北条に追われた後、佐竹の所に走りました。」
太田資正、先の岩槻城主。三楽斎の名でも知られ、関東きっての知将としてしられていた。
何度も北条の攻勢を退けたが、不在の時に不仲な長男に追放されてしまったのだ。史実ではこの後小田家に立ちはだかることになるのである。
しかし結城家に海老ヶ島城と小田城を落とされたはずの戦いを防ぎ切ったり、上杉輝虎に小田城を落とされたはずなのを撤退させたりして、俺達は歴史を少しは変えてきているので、太田資正も佐竹に行かないで、できれば当家に来てほしいなぁ、と都合の良いことを思っていたのだ。
しかしその望みも虚しく、太田資正(とそうなると息子の猛将梶原政景も一緒だろう)は佐竹家に士官してしまった。どうなる俺たち。
あんまり変わらなかったら許して。




