再会 弐
四話目です
「……そういえば、殿下。何故、ベルンは貴方の側に?」
自身の気持ちを切り替える為に、話題を変えた。
「ルイ殿の引き合わせですよ。どうやら彼にとって相当衝撃的な事があったらしい……今のこの国の状態を変える為なら、どんなことでもすると言って、私の前に現れました。そう言った彼は、私が以前より知る彼とは大分変わっていました」
「それについては、私も驚きました。会議の場で見た彼は、外見も中身も私の知る姿では全くなかったのですから。特に内面は……あのような決意を持つのに、一体どのようなことがあったのかと」
「私も、それについては疑問に思って聞きましたよ。そしたら、彼は『地獄を見て来た』と……そう、言っていました。実際彼が名を挙げた貴族の領地には地獄とはかくぞやというようなところもありますから」
「……なるほど」
「それ故に彼は自身が貴族だというのに……いや、貴族だからこそ貴族を憎んでいるようですらありました。それは、自身も含めてですね。その想いを原動力として、私の下に来てから随分働いてくれましたよ。王国直轄とした後の行政システムの素案を作ったのはほぼ彼ですし、私の手の内の者だけでなくアルメニア公爵家の手の内の者も使って精力的に断罪する為の情報を集めていました。不眠不休で情報と証拠に齟齬がないか、現状と照らし合わせ……一体いつ寝ているのかというような仕事ぶりで、私も大分楽させていただきましたよ」
「そうですか。あの子が殿下のお役に立てっていることは、何よりも喜ばしいことです」
王都の屋敷に私は滞在しているというのに、ベルンとまるで会うことがなかった。
私自身、忙しかったというのもあるだろうが……彼もまた、そうであったということだろう。
彼の成長は、アルメニア公爵家に連なる者として喜ばしいことだ。
「こちらこそ、ベルンを私に預けてくれて礼を言いたいところです。決着はついたが、終息したわけではない。各地に大きな爪痕を残したまま。まだ、やらなければならないことが多々あります」
「……そうですわね。この国は、沢山のモノを失いましたわ」
私の言葉に、彼は困ったように笑った。
「最善を尽くしました。できることは、なんでもしました。……でも、私は聞いていない者の叫びすら、この耳にこびりついているような気がしてならないのです。失ったものは、もう取り戻せないと分かっているのに」
これがゲームであれば、バットエンドだったわとリセットして終わり。
けれども、ここは現実だ。
全てをやり直せるような奇跡など、ある筈がない。
全てを救いたかったなど、神様でもない私にとっては思い上がりも甚だしい考えだろう。
私は私のしてきたことに後悔するつもりは、ない。
逃げるつもりも、投げ出すつもりもない。
けれども、もう少し何かできたのではないだろうかという今更な考えが、時々私の頭の中に浮かんでしまう。
「……結果が全てだ。最善を尽くそうとも、やれることを何でもしようとも助けられなかった者たちがいる事実は変わらない」
「……そう、ですわね」
「だが、それを背負うべきは貴女ではない。貴女は、確かに貴女の最善を尽くした。咎められるべきは、背負うべきは、王座につく俺だ」
そう言った彼は、悲しみも怒りも全てを飲み込んだような……そんな、決意のこもった表情を浮かべていた。
口調も、いつかに垣間見た彼の地のそれになっている。
「ディ……」
思わず、私は彼の名を呼びそうになる。
彼は苦笑いを浮かべて、そんな私を止めた。
まるで、それ以上踏み込ませないかのように。




