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不夜城

二話目です

他の領地で騒ぎが起こり、この領……アルメニア領にもその余波が及んでいた。

この領地に移り住みたいと希望する者が、後を絶たない。


一度現場を見てみたいと、皆の反対を押し切って領境の検問所に行った。


……絶句した。


『どうか、アルメニア公爵領に入れてください!』 


『どうか、お恵みを。私は……水以外何も口にせずに、ここまで歩いて来ました』


『子どもたちだけでも、どうかお助けください。この子たちを守れるのであれば、どうなっても良いですから』


『順番を守れ!』 


けたたましい叫び声が、あちらこちらで溢れていた。

誰も彼もがボロボロの様相で、声の限り必死に叫ぶ。


私は耳を塞ぎたい衝動を、必死で堪えた。


その日から、多分私は殆ど寝ていない。

眠ろうとすると、アルメニア領に移住を希望する者たちの叫び声が私の耳の奥に響いた。


その度に、私は書類に向かう。


……逃げるな。負けるな。放り出すな。そう、言い聞かせて。


領地の混乱を最小限に抑えつつ、移住希望者をできる限り受け入れできるよう指示を飛ばす。


それと、アズータ商会のこともしなければならない。

災害で人員に被害はなかったけれども、それでも混乱の最中店はとてもじゃないが開けられなかった。


仕方なく、他領の店については一時的に食糧を取り扱う店は全て閉店した。

手痛い。……けれども、仕方がない。


休みと言っても、働いてくれる人たちの生活は最低限保証するべきであり、その対応を行っていた。


不夜城……と、最近ではこの館が呼ばれるようになっているらしい。

領官たちも、この状況に皆が進んで仕事をしてくれる。


一体どれぐらい、家に帰ることができていないのだろうか。

そう一人の領官に問いかけると、彼は笑った。


『さあ……数えていません。以前帰った時に、逆に妻に叱られましたからね。アイリス様が大変な時なんだから、私たちのことは気にしなくて良いと。あの方は、私達を守ろうとしてくれるんだから……とね。さっさと寝て戻れと言われてしまいましたよ』


それを聞いていた領官たちも、笑いながら『ウチも』『ウチも』と同意していた。


彼らの言葉に、私は顔も見た事がない領官たちの家族に感謝した。

同時に、奮い立った。


目の下の隈を化粧で隠すようになったのは、いつからだろうか。

もう、覚えてない。

けれども、どうでも良い。


……現実から、逃げるな。自分に、負けるな。責任を放り出すな。

書類に囲まれ、頭を抱えながら私は呟く。


皆が信じてついてきてくれている。

国が荒れ、被害を被るのは民たち。


私は、許せない。……その、理不尽な現実を。

この書類一枚一枚に、指示の一つ一つに、彼らの命が……そして外で待つ、アルメニア公爵領に最後の希望を託してやってきた未来のこの領の領民たちのそれもかかっているのだ。


だから、休む暇などないのだ。


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