仕事 参
「早急に指示を出しましょう。丁度請負の商会の方がいらっしゃるから確認させていただきますが、人員の補充はどうなっているのかしら?」
突然話題を振った形になってしまったものの、この部屋まで共に来た彼は動揺した様子も見せずにすぐに口を開く。
「助成金を幾らか回して日雇いとして人を雇いました。それでも、最低ラインですが。これ以上急ぎとなると、さらなる人員が必要となります」
「財政部門の立場から言わせていただくと、この工事にこれ以上の予算の分配は難しい」
「なるほど。……ただ、やはり不慣れな作業故か事故が起き、怪我を負ってしまう者も出て来ます。怪我が大きければ、その分人員が減ることとなってしまうので、補充できるようにしておきたいというのが正直なところです」
「その怪我を負った者たちはどうしているの?」
「各自で、自宅療養または病院に行ってもらっています」
「その治療費は?」
「それは、自己負担ですよ。勿論」
何を当たり前のことを……という様子で、彼は首を傾げていた。
「そう……。その対策にしついては、こちらでも考えさせていただきます。今日は、これにて閉会させていただきます。皆様ありがとうございました」
解散を伝えると、乾いた喉をそれぞれ潤す。
今日も白熱した話し合いだったから、きっと喉が渇いたのだろう。
大きめのグラスに入った飲み物をゴクゴクと一気飲みのような勢いで飲み尽くすと、皆は席を立って出て行った。
「どうでしたか?」
連れて来た彼に問いかけると、彼は興奮したような目を向けた。
「とても、勉強になりました。皆さんの熱意に、自分の胸が熱くなるような心地すらしましたよ」
「そう。……それは良かったわ」
彼の真っ直ぐな目と声色に、私も笑みを返す。
「貴重な体験をさせていただき、ありがとうございました」
そうして去って行った彼を見送った後、私は手元の資料を再び見た。
「怪我を負った者たち……か」
「いかがなされましたかあ、お嬢様」
私の独り言に、隣にいたレーメが反応した。
「何でもないの、少し考え事をしていただけ」
「気になることがあったら、いつでもお聞きくださいね。そういえば、災害といえば今年は少し注意した方が良いかもしれませんね」
「まさか、この領地にその兆しが既にあると?」
「いえいえ、違いますぅ。何ヶ月か、暑い日が続きましたがぁ……その後って、大雨が続くことがこの国には多いんですよねぇ。特に、西部の方で。大体百年周期ぐらいですかねぇ。毎回特にアルメリア領に影響はないので関係ないのですがぁ、一応お耳に入れておこうかと」
「ありがとう。それについては、一応関連資料を後で私に渡して貰える?」
「勿論ですぅ」
「よろしくね……これからも頼りにしているわ、レーメ」




