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お茶会 弐

2/2

「あれ?これ、ターニャが淹れたやつか?」


「よく分かったわね」


私の指摘に、彼は照れたような苦笑いを浮かべる。


「まあ、な。……それより、姫様はどうして俺を引き留めたんだい?」


「報告……とまではいかないけれども、貴方に伝えたいことがあって」


カップの中身を飲みきって、私はそれを机の上に置いた。

視線を戻したその先にいるディダは、いつの間にか居住まいを正している。


「そんなに硬くならなくて大丈夫よ」


「そう言うなら姫様も、そんな深刻そうな顔をしないでくれよ」


「あら……」


思ってもみなかった指摘に、私は笑ってしまった。

彼の話をするのに、ついつい癖で顔が強張ってしまっていたみたい。


「ごめんなさいね。それで、話なんだけど。実は、ドルッセンが騎士団を辞めたらしいのよ」


ディダはお祖父様のところで何度かドルッセンに会っていたみたいだし、ボルディックファミリーの時には一緒に捕まっていたし。

何かと縁があったので、先んじて伝えようと思ったのだ。


「……そうっすか」


ディダの反応は、思っていた以上に至極あっさりとしたものだった。

まるで、それが当たり前のことのように。


「思ったよりも、驚かないのね。まさか……知っていた?」


「いいや、知らなかったさ。けれども、何となく予感していた」


「へえ……それは、どうして?」


「あいつ、家を出る前に俺に言ったんだよ。『騎士とは、何だろうな』ってな」


「騎士ではない貴方に、騎士とは何かと彼は問いかけたの?」


「『貴君やライル殿の方が私よりもよっぽど、私の思い描いていた騎士だと思った』だってさ。よく分からんかったから『んなもん、知るか』って返しちまったよ」


「まあ……」


「『名に固執し、驕り、本来のあるべき姿から遠いものになってしまっていた』と、あいつは言っていたな」


「貴方は、何て返したの?」


「『本来のあるべき姿って何だ?』だよ。……だって、そうだろう?どんなに頑張ったって、自分は自分にしかなれない。問うべきなのは、『自分がどういう自分になりたいのか』だと俺は思うわけよ。そのためにどうしていくべきなのか、どうしたいのかを積み重ねていくんじゃねえかな。あいつからは、どうしたいのか、どうなりたいのか、確固たる『自分』がないように感じた。というか、自分の立ち位置が分からず理想ばかり追い求めているつう感じかな?だからこそ、騎士団の名に固執し、伯爵家の嫡男という立ち位置に驕ったんじゃねえの?まあ、貴族の坊ちゃん嬢ちゃんは大抵そうか」


「厳しい言葉ね。それ、全て彼に言ったの?」


「まあ、似たようなことを。そうしたら『この地に来て、色々と考えさせられた。犯した罪は重く、過去に戻れない以上その罪は未来永劫存在する。我が身だけならまだしも、騎士という存在にまで。だからこそ、私は贖わなけれなならない。贖って、もう一度自分の憧れを、憧れていた姿を思い出し、再び目指そうと思う』だとさ」


「へえ……まあ、良いんじゃないの」


「姫様こそ、随分あっさりしてるじゃねえか。あいつにとっては、きっと重い決断だったと思うけど?」


「興味がないから、ね」


「随分と冷たい言葉だなあ」


「自分でも、そう思うわ。でも、そうとしか言い表せないのだもの。……彼の所信表明を聞いて、どうしろと?彼が私に……この領に対して何かしてこようとしない限り、彼がどうなろうと何をしようとも私は構わないのよ。正直、過去のことも『どうでも良い』と思っているから」


「許したってこと?」


「……あの時のことが、なかったことにはならない。私も、あの時の経験を通して変わってしまったわ。それは良い意味でも、悪い意味でも。でも、既に過去のこと。それに拘るよりも、大切なものが私にはあるから」


慌ただしい毎日を送るうちに、遠い過去どころか他人事のようにすら思えるようになった。


それに拘るよりも、大切なものがあるから。


……尤も、あの時のことは私の心には深く刻み込まれてはいるが。


私とワタシの人格が融合したこともあるが、色々トラウマめいた傷が残っている。


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― 新着の感想 ―
ほうほう、ディダとターニャか。 作者も態々書く必要が無いドルッセンのその後は杳として知れない。
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