兆し2
こういうのも・・・。
茜は翌日から仕事に戻った。
「茜ちゃん、もう大丈夫なの」
心配する船頭長に、彼女の胸は後ろめたさで、ちょっぴりチクリと痛んだが、苦笑いをして、
「はい。お世話おかけしました」
と頭を下げる。
「ほぼ、男所帯の仕事場だから行き届かない面、多々あると思うから、思う所があったら言ってよな」
船頭長は言った。
「・・・西さん、どうしたの?急に」
彼女は不思議そうに西を見た。
「いや、今、皆平等だなんて・・・いろいろあるだろ。言ってみただけ・・・かも」
「なあんだ」
2人は思わず笑ってしまう。
「では、今日も元気にやりまっしょい」
「はい」
茜は船頭部屋を出て、舟準備へと向かう。
今日2度目の川下りで、乗合船で海外の家族を乗せた。
竿をさす茜の近くで、小さな女の子が一生懸命に絵を描いていた。
(可愛いな。風景でも描いているのかな)
そう思いつつ、操船とガイドに彼女は集中する。
舟は到着し、茜は桟橋に移り舟を係留し、
「到着いたしました。本日のご乗船まことにありがとうございます」
感謝を伝え下船を促す。
すべてのお客を降ろすと、茜の隣に女の子がいた。
「どうしたの?」
モジモジとしている女の子に、父親がカタコトで、
「アナタニプレゼントデス」
言い、そっとその子の肩を押す。
女の子は後ろ手に隠し持った紙を茜の前に見せる。
「サンキュー」
恥ずかしそうに言うと、女の子はすぐ父親に後ろに隠れた。
茜はその絵を見る。
自分が川下りをしている姿だった。
(あの時、描いていたのは私だったんだ)
彼女は、咄嗟に、
「ありがとう。サンキュー」
と言葉にだした。
父親の足から顔をちょこんとだした少女は嬉しそうに笑った。
「サンキュー。大事にするね。マイ・トレジャー」
茜はそう言って、絵を掲げた。
少女はうんうんと頷き、いつまでも手を振り続ける。
茜も家族が見えなくなるまで、ずっと手を振り返した。
嬉しい。




