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41話 バリア魔法と時間魔法

空飛ぶ魔族の一団を目にして、わが領民は何を思うだろう。


破滅か、変革か、少なくとも俺ならいい未来は想像しない。

死の領主たる俺は、また新たな一歩を踏み出したわけだ。


アザゼルに託した仕事というのは、大陸中に封印されている魔族の封印解除だ。

先の神々の戦争時に敗北したフェイたちは、異世界からやってきた勇者により順次封印されていった。


強大な力を持った魔族は、倒しきるよりも封印したほうが、コスパがよかったのだろう。そのツケを後世に託したようだけれど、後世の人類は何もしなかったみたい……。悪いな、勇者。俺たちは魔族の話どころか、神々の戦争についてすらろくに知らないお愚か者だ。


300年前の勇者の功績は無に帰し、こうして死の領主のもとに集った。

さあ、これから人間どもを滅ぼそう! と俺が言い出したらいよいよ世界は終わりだ。


俺ができた人間でよかったな、世界。ふふっ。

自画自賛も終わったところで、アザゼルを探す。


連れてきた魔族は数百人を超す。最初に連れてきた二十数名からはるかに数が増えたわけだ。

こうなってくると、質と、制御が効くのか気になってくる。

明らかに反抗的な目で見られながら、魔族の間を歩いて、目的のアザゼルはどこかとあたりを見回した。


屋敷に入りきらないので、庭や屋敷の外にいて貰っているが、地面に座り込んだり、飛べるやつらは屋根の上や、兵の上に乗ったりしている。屯している族状態だな。魔族だけに!!

てへっ。うまいことを言ってしまったな。


空を飛んで、アザゼル側から俺に近づいてきた。

「すみません、シールド様。まとめて連れてきすぎました」

「効率よく動けたってことだな」

大陸は広い。探す手間も考えると、短期間にこれだけの魔族を解き放てたのは非常に優秀と言えるだろう。


アザゼルから魔族を解き放つ作戦を聞いた時、流石にどうしようか悩んだ。

しかし、直面している問題と、これまで魔族たちと築き上げてきた信頼関係を鑑みて、俺はGOサインを出した。

魔族を集めるだけ集めよう。

この地は、ドラゴンも、人も、魔族だって、そしてエルフも! だれが来ようとも拒むことはない。そういう土地にしようと俺が決めた。

もう決めたので、だれにも文句は言わせない。これが死の領主のやり方。


「当分の間は軍の宿舎に入ってもらいます。先にここに来たのは、シールド様にあいさつをさせようと……」

律儀なアザゼルらしい行動だったけれど、結果的にマナーのなっていない族のようになってしまった。


「申し訳ございません。このような状態になってしまい。すぐに引き上げます。直、静まるかと」

「別にいい。ゆっくりしていけ。みんな長旅だったんだろう?」

ずいぶんな距離を飛んできたに違いない。

みんな起用に魔法を使ってきたとはいえ、疲労は相当溜まっているはずだ。

少し騒がしいが、この程度なんてことはない。


「えー、えー、えー、えー。長旅でした。そして、長い封印、長い時間の浪費でしたとも」

「ん?」

魔族をかき分けて、仮面をつけた一人の魔族が前に進み出てくる。

話し方も特徴的だが、歩き方も横にふらふらと揺れながら歩いており、異質さが見た目から伝わってくる。

目立ちたがり屋か、それとも。まあどちらにしろ、俺はこういうやつが嫌いではない。話を聞いてみよう。


「これが私たちの頭になる人間? ……納得いかない。えー、納得いかないとも。えー」

「下がっていろ、チクタク」

アザゼルが強い口調で、フラフラ歩く魔族をけん制する。


どこからともなくシルクハットを取り出したチクタクと呼ばれた魔族は、丁寧なしぐさでシルクハットをかぶる。

仮面のせいで顔が見えないが、その視線は強く俺を捉えている。


やる気だな。これは。言葉で済むとは思えなかった。


「申し訳ございません、シールド様。チクタクは制御しづらいとわかっていたものの、その特異な魔法に利用価値があると判断して連れて参りました。すぐに、黙らせます」

「その必要はない」


魔法を使用しかけたアザゼルを止めた。

腐敗の魔法を仲間に向けて撃つんじゃない。

黙らせる、なんてものでは済まないぞ。


魔族の再生力は人の比ではない。

初めてアザゼルと会ったとき、腕と翼を数日で再生させていた。

けれど、腐敗の魔法を自身で受けた時の、あの苦悶に満ちたあの表情は間違いなく痛みがあったはず。


そんな魔法を仲間に簡単に使われては困る。


「俺がやる。チクタクとやら、不満なのはわかる。弱いやつに従うのは誰だって納得いかないよな?」

「えー、えー。魔族の心をよく理解しておられる。では、どうやって我らを従える?」

「もちろん、力で!」


仮面の下に表情が隠れていようとも、お前が先ほどから戦いたくて仕方ない、好戦的な笑みを隠しきれていないのはわかっている。

ゲーマグといい、アカネといい、戦闘狂のやつらってのは、どうも雰囲気が似ている。


戦闘前からビシバシと危ないオーラを放っているんだ。悪いが、そういう連中には慣れている。


「えー。えー、やりましょう。それがいい。時というのは残酷。どんなに美しくとも、また強いものでも、必ず朽ち果てる」


詩的な魔族だな。

おそらく、今の言葉は魔法に関係するのだろう。最近強者ばかり相手にしてきたせいか、戦闘に入ろうとしている今も、妙に頭がクールでよく働いてくれた。


「時間魔法――超スロー。一週間ほど止まっていなさい。その間に玩具にしてあげます」

「バリア――魔法反射。お前がな」


空間を歪ませながら飛んできた魔法が俺のバリアとぶつかり合う。

特異な魔法でも関係ない。


魔法である限り、俺のバリアを突破できないものは、すべて撥ね返される。


「えー、えー、あ?」

魔法が跳ね返り、理解が追い付かず首を少し捻るチクタクに直撃する。


フラフラした動きが一瞬にして止まり、凍り付いたように微動だにせず。

これが彼の言っていた時間魔法というやつか。

見た目じゃ、本当に魔法を食らっているのかわからない。


「一週間は指一本まともに動けないでしょう。対象物の時間をスローにする魔法です」

「一週間もこのまま?」

「ええ、このままです」

解説ありがとう。

アザゼルがそういうならそうなのだろう。


恐ろしい魔法には違いないが、その力を俺に向けたのが悪い。

一週間ほど反省していろ。

アザゼルの言う通り、制御できれば強力な武器になりえる魔法だ。


「馬小屋にもでも運んでおきます」

「お前、意地悪だな」

アザゼルのアイデアに笑ってしまった。


「シールド様に逆らった愚か者です。この程度で済んだこと、感謝してほしいくらいですね」

たしかに、アザゼルの腐敗魔法を食らって腕が腐り落ちるよりかは軽い罰だろう。

馬小屋に運び入れることを許可した。臭いだろうけど、そこで反省していてくれ。


チクタクとの戦闘は終わったが、まだ仕事は終わっちゃいない。

俺は大きく息を吸い込んで、辺り一帯に聞こえるように、大きな声で話し始める。


「俺はミライエ自治領主、シールド・レイアレス。お前たちを従える者だ!」

大きな声に反応して、騒がしかった魔族たちが全員こちらに注目した。


「文句のあるやつは全員かかってこい。今から俺がわからせてやる。前に出ろ」

少しだけ反応を待ったが、だれも出てこない。

チクタクとの戦闘を見た者もいるし、アザゼルが俺のもとにいるのも影響しているのだろう。誰ももう逆らおうとは思っていなかった。


「いないな。じゃあ話を進める。俺はお前たちを支配するつもりはない。共存って言葉を知っているか? 俺にはお前たちの力が必要だし、お前たちには安寧の土地が必要だ。争って生きるのはもう嫌だろ?」

アザゼルやベルーガがたまに漏らしている言葉から、俺は魔族が好き好んで争っていないことを知っている。


歴史を紐解けば、魔族はその強力な力ゆえに人に恐れられ、迫害されてきた立場だ。

自分たちの身を守るために、神々の戦争を始めたことは、なにも加害者になりたかったというわけではない。

それぞれに事情があっただけのこと。


「働く者には、住処と金をやる。それで文句があるやつは、今すぐここを立ち去れ。ここは俺と、お前たちの住処になる場所だ。存分に生を謳歌していけ。文句あるか!」


ない――!!


どこからか声が飛んできて、次いで、魔族たちから歓声が巻き起こる。

一気にお祭り染みた空気になってきた。


3メートルを超す巨体を持つ魔族が進み出てきて、俺に近づく。

お? 今更やろうってか?


「おわっ!?」

そうではなかった。


俺を担ぎ上げ、肩に乗せた。

視界が高くなり、遠くまで見える。魔族たちの顔がよく見えた。


「シールド・レイアレス!!」

野太い声で、俺の下にいる魔族が叫んだ。

俺の名前が一帯に響く。


……恥ずかしいから、ほどほどに勘弁してくれ。

俺の気持ちなど知りようもない彼らは、しばらくお祭り騒ぎを楽しんだのだった。


魔族を大量に受け入れたこの日は、ミライエ、そして大陸の歴史に残る新たな一ページの幕開けとなった。



――。


「ここはどこ!?」

ミライエ領主邸でめでたいことが起きていた日、オリヴィエはなぜか船に乗っていた。

それも巨大な商船の一室に。


「海!?」

波の音で、居場所を理解する。自分でも信じられない。

エルフの看病の休憩に市場に出かけたら、戻る道がわからなくなり、慌てて移動魔法を連発している間に疲れ果て、森で眠っていたはずだった。


「まさか、寝ている間にも無意識で移動魔法を!?」

それしか考えられなかった。

せっかくシールドに出会えたのに。またもやはぐれてしまった。


オリヴィエは、自分に悲しいまでの天性の方向音痴さがあったことを、今更自覚し始めていた。

オリヴィエの、シールドと会えない日々がまた始まった。

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― 新着の感想 ―
[一言] はぁ、あまりオリヴィエ馬鹿なキャラにするのやめない? なんの役職のトップよ? 空飛ぶ魔法は? 居場所マーキングや捜索の魔法は? 透視や遠見の魔法は?   転移や蘇生魔法すら使える天才魔法使い…
[一言] 姐さんかわいそす
[一言] この人いままでどうやって生活してたのw
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