26話 開戦
夜明け前。
太陽が登り始めた頃、街に近づいてくる怪しい集団がいた。
剣や槍、斧など多種多様な武器を持ちつつ、下品な笑みを浮かべている。
彼らは物陰から物陰に移動しつつ、ゆっくりと距離を詰めていく。
陽が登り始めているため、完全に姿を隠すことはできない。
しかし、彼らは知っていた。
夜を超えて、陽が登り始めた時こそ、一番油断しやすいということを。
今夜もなにもなかった。
さあ、新しい一日が始まるぞ。
……そうやって油断したところを襲えばいい。
全て、頭領の指示……アッガスの命令だった。
戦闘に長けているアッガスは、戦術にも長けていた。
天才的とまではいかないものの、その戦略は、並の人間に見破ることはできない。
ただ……
アッガス以上の能力、戦術を持つ者が敵にいた。
――――――――――
「たぶん、敵は夜明け前を狙ってくると思います。なので、騙されたフリをして、こちらが逆に奇襲をしかけてやりましょう」
……そんな話を聞かされて、街を防衛する騎士は困惑した。
話はわからないでもないが……
それを口にしているのは、まだ十二歳の子供だ。
Cランクの冒険者だとしても、その話をそのまま信じていいものか。
うーん、となってしまう。
ただ、アズ・アライズ以上の戦術を語る者はいない。
彼女以上に、戦況を的確に冷静に見極められる者はいない。
故に、騎士達はアズの言葉を信じて……
それが正しい道だったと悟る。
眠気を堪える演技をしていると、殺気を感じた。
あくびをするフリをしつつ視線を走らせると、物陰に盗賊が二人。
そっと近づいてきているが、気配を殺しきれていない。
自分達の勝利を確信している様子で……
それ故に、油断しているのだろう。
「……なあ、夜勤明けたら、寝る前に一杯やっていかないか?」
「おっ、いいね」
さらに油断を誘うべく、同僚の騎士と呑気な会話をしてみせた。
これも、事前にアズから指示されていたことだ。
敵を発見したら、さらに油断を誘うように……と。
そうすれば、きっと敵は無防備に近寄ってくるだろう……と。
そんな指示通りに、盗賊達は、足音すら立てて近寄ってきた。
騎士達が油断していると、そう思い込み、自らが油断していることを自覚していない。
そして……
「がっ!?」
「ぎゃあっ!?」
騎士達は盗賊の予想を裏切るように、颯爽と駆け出した。
そのまま、二人の盗賊を斬り捨てる。
「すごいな……こうも簡単に、罠に引っかかるとは」
「あのアズっていう女の子、実は、とんでもない策略家なのかな?」
「Cランクの冒険者らしいけど、どうだろうな? ただ……」
「ただ?」
「……天使みたいにかわいいな」
「お、お前……」
ロリコンだったのか……と、相方の騎士は引いてしまうのだった。
――――――――――
「敵もバカではないと思うので、真正面から突っ込んでくることはないでしょう。突っ込んでくるのは多少いると思いますが、それは囮です。本命は、下水を使うでしょうね。下水を通り街の中へ侵入して、門を開く。その役を与えられた人が必ずいるはずです」
……そんなアズの指摘を受けて、ミゼリーと二人の冒険者は下水に潜んでいた。
一応、足場はあるものの……
すぐ近くを下水が流れていて、非常に臭う。
「……くせえ」
「マジできついな、これ」
冒険者二人は、やる気がマイナスに突入していた。
ミゼリーは、そんな二人を睨みつける。
「なに? マイスイートエンジェル、アズちゃんの作戦にケチつけるつもりかしら?」
「い、いえ、そんなことは……」
「あの子がすごいことは、もう、俺らも認めているんで」
冒険者達は苦笑する。
「俺ら、一度は街を捨てて逃げて……それだけじゃなくて、あの子にも酷いことを言って……」
「それなのに、笑顔で許してくれたんですよ? そこまでされて、信じないとか、ありえないっしょ」
「なら、不満そうなのはどうしてかしら?」
「あの子のことは信じてるけど……」
「さすがに、この臭いはきついっす。早く来てくれー、って感じですね」
「ま、そういうことなら仕方ないわね」
ミゼリーも苦笑して……
次いで、真面目な顔を作る。
「でも、これはアズちゃんに任されたの。私達ならできるって、そう信じて……託されたのよ」
「「……」」
「確かに酷い場所だけど、でも、信じてくれたのなら、それに応えないといけないわ。そう思わない?」
「「応!」」
アズは天使。
それと同時に英雄で、いざという時、とても頼りになる姉御。
本人が聞いたら頭を抱えてしまいそうな誤った認識を抱く冒険者達は、己の役割を果たしてみせると、力強く頷いてみせるのだった。
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