ユ:月の光を集めるために
VRゲーム〔SF〕ランキングの累計50位になりました。
いつもありがとうございます。
「だから銀の水盆を置きたい!」
「なるほど」
今回も、魔女集会から帰ってきたキーナはご機嫌だ。
俺の横のネビュラをワッシワシワッシワシと撫で回しながら、貰ったお土産を広げてどんな物を貰ったのか説明をしている。
「この瓶に入ってるのが『月の光』?」
「だって。面白い見た目してるよね」
ジャムの小瓶くらいのガラス瓶に入った『月の光』。
見た目はうっすら透けている水銀で、わずかに光を発している。
【月の光】…品質★★★★
水鏡から集めた月の光。
強い魔力を秘めているが、そのままでは生命に有害な物。
強力だけど少し危険物って感じか。
そのままではって事は、何かしらの加工が必要なんだろうな。
「MPポーションの材料って、『月光雫の蜜』じゃん? あれって花の蜜にこれが少し入ってるのかもしれないね」
「あー、花に吸収されて無害な蜜になってるような?」
「そうそう」
「あるかもしれない。……で、これを採取するのに水盆が必要ってこと?」
「そういうこと。……見てこれ。月光の魔女さん、わざわざ取説つけてくれたんだよ」
律儀だな。
頭の中でクラシックの月の光が再生されながら、俺は取説に目を通す。その横で、キーナは何故かネビュラの上にクロを乗せている。
羊皮紙に書かれていたのは、素材として分かっている事と、採取の方法だった。
「……なんかニヒルな顔がある三日月が描いてある……」
「えーっと……『素手で触ると手に光が付着! ゲーム内時間で1日経たないと消えないゾ! しかもその間MPがジワジワ回復し続ける代わりに、HPがジワジワ減っちゃうゾ!』」
「……どうして三日月の説明スタイルにしてしまったのか」
「キミの隣にフッシーの説明スタイルのスキル本描いた僕がいますが何か?」
「……そうでしたね」
ニヒルな三日月の説明によれば。
触る時は手袋必須。
『月の光』をこのまま飲んだり食べたりするのは死に戻りを覚悟してやる事。
MPポーション1瓶に対して1滴垂らすと、高ランクのポーションになるのは確認済。それ以外はまだ全然研究は進んでいない。
「……割と見つけてすぐって感じなのか」
「そうみたい。MPが上がるなら、量を集めて結晶とかにしたらどうかなーって」
「ああ、なるほど」
魔法職は欲しいよな、強力なMP関係のアイテムは。
それなら……そのまま取説の、採取の方法を確認する。
「……もしかして、採取の説明してる何とも言えない顔した丸いキャラクターは、水盆の器か?」
「かもしれない」
ドヤ顔半笑いの水盆の説明によれば。
まず、水盆は丸い形でないと駄目だという事。
そして水盆を外に出しっぱなしにしても『月の光』が採れるようになるまでかなり長い時間がかかる事。その間、水を完全に入れ替えてはならず、水を切らしてもいけない。注ぎ足しが必須。
水盆にする器は、大きい方が月の光はたくさん採れるらしい。
「……水盆置くだけならとっくに見つかってそうだけどな。丸い形がネックなのか……?」
「んー……後は、時間かかるから気付くまえに屋内に動かしたり水を入れ替えたりしちゃうんじゃない?」
「ああー」
開拓ゲームの開始直後なんて、頻繁に家具のレイアウト変えるだろうしな。
それに、強力なアイテムだから秘匿している奴がいる可能性もある。
「あとは水盆の素材による違いか……『銀製が一番溜まるのが早くて効率が良いが、代わりに水の減りが妙に早い』」
「この魔女さんの拠点、何個くらい水盆あるんだろ。庭とか水盆まみれなんじゃないかな?」
まぁ自分で検証しようと思ったらそうなるだろうな。
しかし、水盆ねぇ……俺は拠点の敷地にぐるっと目をやった。
真横ではキーナの手によってネビュラの上にクロが、そしてクロの上にモーモースライムのモーが乗せられ始めた。開けた所ではしゃぐサナとジャック達。そこへじゃれつくチーム・ベラドンナ。そしてそこらをウロチョロするスライムやマンドラゴラ……
「……あんまり目立つ所に置くのは怖いな」
「んー、噴水じゃないからねぇ。それこそ自宅の木の上の方に水盆用の足場作る方がいいかもよ」
「ああ、葉の上に出るように?」
「そうそう」
うん、悪くないな。子供の手の届かない所ってやつだ。
ゲームだからしっかり固定するのも難しくはない。
屋根の上ならヤンチャな面子がひっくり返したり手を突っ込む心配も無いだろう。俺達の家の木にだけ登らないように言い含めておけばいい。
「大きさどうする?」
「んー……中華鍋くらい?」
「まぁそんなもんか」
ただ、うちにそんなサイズの丸い銀の器は無い。
「どこかに良いの売ってないかなー」
「……買うよりジャックに作ってもらった方がいいかもしれない。その方が身バレの心配もないし」
「あ、確かに」
ただ、うちには鉄とレゾアニムスはあっても銀は無い。
「買うか採掘するかしないとな」
「んー……とりあえずどこで掘れるのか調べてみる? あんまり遠かったらやめよう」
「オッケー」
調べ物をするなら有志wikiだな。
ちょっと早いが、俺達は一緒にログアウトする事にした。
なお、ネビュラは最終的にクロとスライム2匹に豆ニワトリとシマエナガが乗ったタワーが完成していた。……が、気まぐれなクロが飽きて動いた事で儚く崩れ落ちていた。




