ユ:VS高レベル夢魔
俺達が隠れている部屋に駆け込んで来たのは、多分ヒューマンと何かの獣人の二人組。
暫定ヒューマンの方はシステムウィンドウを開きっぱなしだった。つまりはプレイヤーだ。
獣人は……なんだ? 顔が細長い……アルマジロか? こっちはプレイヤーかNPCか区別がつかない。
そして駆け込んで来た二人の後から、扉をぶち破って巨大な草の塊が溢れ出してきた。
隣のキーナの肩が驚いてビクリと跳ねる。
部屋の壁を埋めるように生えて広がる普通のサイズの白詰草。
そして廊下からズルリと蛇のような動きで現れたのは、巨大な白詰草の集合体。
夢魔・白夢草 Lv158
レベル高ぇよ! こんなん勝てるか!
とはいえ、アルマジロ獣人がNPCかどうか分からない以上、なんだか玉砕覚悟に見えるこの二人に加勢しない理由が無い。
何より、隣のキーナは既にやる気だ。
「ペタちゃん、あの敵に不意打ち」
「受諾」
悪魔のペタに躊躇いはない。
指示を受ければ、直ぐにクローゼットから飛び出した。
合わせて、俺の魔眼を両方とも発動。
ペタが白夢草を巨大化させた爪で薙ぎ払う。
千切れ飛んだ草と葉。
驚いてペタを見上げる、追われていた二人。
まずは不意打ちが確実に決まればいい、すぐに魔眼を解除。
キーナは慣れた様子で直ぐに次の手を打つ。
「横殴りだったらごめんなさーい! 【サモンネクロマンス:フッシー】【煉獄の炎】!」
「ハーッハッハッハー! これはまた随分とレベルの高い悪魔を相手にしておるな主よ。相手にとって不足無し!」
高笑いしながら飛び出したフッシーが、【煉獄の炎】で白夢草を包み込む。
白夢草は熱さから逃れようと身をよじり、部屋の壁にぶつかる勢いで飛び退った。
しかし、壁にはぶつからない。
それどころか、瞬時に壁が消失している。
部屋の一方向の壁が消え失せて、その向こうは水平線が広がる凪いだ水面と曇り空。
そこへ爆発するような水音と水柱を立てながら、白夢草が着地して体の炎を消した。知能が高い。
「え、森夫婦!? うっそでしょ! 夢じゃないです!?」
「夢だよ」
「夢だねぇ」
「……夢ですね」
俺達をそう呼ぶって事はアルマジロ獣人もプレイヤーか。
お互い状況確認をしたいが、自己紹介をしていられるような状況でもない。
現に、ペタから直ぐに警告が飛んだ。
「警告。今のペタちゃんではあの夢魔には勝てない」
「皆でやっても無理? 火でなんとかゴリ押せない?」
キーナが首を傾げる。
レベル差はあるが、種族と属性の相性で押し切るつもりらしい。
だがペタはクルリと目を回してからそれを否定した。
「勝率、限りなくゼロ」
「あの夢魔そんなに強いの? いやレベルは高いけど……」
「あれは『望む内容の夢を見たい』という欲が夢溜まりから芽吹いたモノ。その類の夢魔は、強くなればなるほどに、夢の中においては万能となる」
「ホーウ……即ち、生ける【夢魔法】。支配する夢領域において、老成せし白夢草は神の如し」
……ああ、夢を扱える奴は夢のルールとかも決められるんだったな。
追われていた二人が、何かハッとした顔でステータスウィンドウを見ている。
それにならって俺もウィンドウを開いて確認すると……なるほど、『召喚禁止』のバッドステータスが増えていた。キーナがフッシーを呼んだのを見て付与されたのか。
多分、こっちが何かする度にバッドステータスが増えていくな。
「いやどうやって倒すんですかいそんな相手ー!?」
悲鳴のように叫んだアルマジロに、しかしペタは事もなげに平坦な声で返す。
「容易。夢魔は夢の外では無力な存在。現実での撃退を推奨する」
「えええー!?」
身も蓋もない解決策だ。
とはいえ、そんな仕様な上にこのレベル差ならそれしか無いのかもしれない。
と、なればここは撤退一択か。
……そんなやり取りをした所で、派手な水音が上がる。
フッシーが押し留めていた白夢草が宙に浮かび、その足元の水面が見慣れた紫色に染まっていた。
「いかん! 死の海の水ぞ!」
「ぬぅ!?」
紫色の水柱が、フッシーの【煉獄の炎】を防ぎ、なおかつフッシーを包み込もうと追いかけ始めた。
まぁ夢の中なんて閉鎖空間なら死の海の水の使用制限なんてモノも無いよな。
俺は駆け込んで来た二人に声をかける。
「……今聞いた通りです。我々は撤退します。そちらも撤退を推奨します」
「あの、御一緒に撤退させていただいてもよろしいですか?」
真剣な顔で要請するヒューマン、必死な顔で頷くアルマジロ獣人。
「我々、契約している夢の幻獣がやられてから、死んでもここでリスポーンするようになってしまっていまして」
「そうなんです! 『夢領域の虜囚』ってデバフついちゃってまして!」
うわ、そんなデバフあるのか。
その状態で一緒に撤退出来るのか?
フッシーを気にしながらも今の話を聞いていたキーナが、自分の夢魔と夢の幻獣を見ながら問う。
「……ミミー、ペタちゃん、『夢領域の虜囚』ってデバフはなんとかなる?」
「ホーウ……夢の幻獣は、覚醒への出口は開けられようが、引き止める手を解く力は持たぬ」
「この程度の強度の拘束ならば、ペタちゃんは断ち切れる」
「じゃあそれで!」
主の指示を受けて、ミミーが「ホーウ」と鳴いた。
グワッと空間が口を開け、直後にペタが誰だか分からん二人組の背後を薙ぎ払う。
──と、同時に水上の白夢草が巨大な花を、まるで頭かのようにこっちへ向けた。
「こっち向いたー!」
「撤退、急げ!」
「ありがとうございます!」
「お世話なりまぁーすー!」
さっさと二人組を穴に送り出し、俺達はこっちに飛んでくるフッシーを待った。
「急いでー!」
追いかけて来る白夢草。
俺は、両目の魔眼を発動しながら矢をつがえ、思いっきり引き絞る。
そして魔法の詠唱、イメージは風の大砲。
「……【ウィンドクリエイト】!」
ヒラリと避けたフッシーの後ろで、真正面から暴風を受けた白夢草の勢いが若干落ちる。
……それでも勢いが落ちるだけか、マジで今は勝てないな。
「助かったぞご主人!」
「うん」
フッシーがヒュンと穴に逃げ込んでから、俺達も後を追って夢から撤退。拠点へと帰還した。
追記:次回掲示板回なので1日空きます




