ユ:贈り物の検品作業でございます。
子爵家の屋敷の中、俺達が案内された部屋の中には……まるでクリスマスのイメージポスターのようなプレゼントの包みの山と、仁王立ちしてそれらを睨みつけている貴族老人がひとりいた。
「先代ブロニ伯爵当主様、冒険者様方をお連れしました」
「うむ」
先代ブロニ伯爵当主様……つまり開拓神の聖人でもあるグリッタランス爺さんは、祝い事らしく花を胸に挿した正装には似合わない渋い表情で俺達に向き直った。
「グリッタランス殿、この度は……」
「お前達、せっかく孫娘の祝いに来てくれたというのに面倒事を頼んですまんな」
俺達全員と顔見知りらしいグリッタランス爺さんは、溜息を吐いて部屋のプレゼントの山を指した。
「見ての通り、うちの孫とロナウドは友人が多くてな。祝いの品もそれなりじゃ。そしてモテるからこそ、無記名の贈り物などという面倒な物が届いてもおかしくはない」
だが、今のご時世では簡単に開けられない。とグリッタランス爺さんは言う。……どのご時世でも、簡単に開けない方がいいと思うけどな。
「せめて安全確認は先にしておきたいんじゃが……」
「グリッタランス殿は、どのような危険の可能性があるとお考えですか?」
パピルスさんの質問に、グリッタランス爺さんは顎に手を当てて片眉を上げた。
「そうじゃな……まずは強力な魔導具の類。そして呪いの品でないかどうか。あとは中にモンスターの類が封印されていないかどうかじゃな」
この三種類は、不用意に開けると周囲を巻き込んで甚大な被害を出す可能性のある物だと言う。
逆に言えば、この三種類をまず外見で判断をつけて仕分けてしまえば、後は俺達プレイヤーがちょっと開けて確認すれば済む。
達成するべき内容を確認できたので、俺達はまず取れる手段を確認した。
「確か森女さんは【解析】持ちでしたと聞いた事がありますが?」
「うん、【解析】はあるよ。だから封印は見分けられる」
「魔導具の類も【解析】である程度の判別はつけられるはずです。籠められた魔力が明らかに強いものを教えてください」
「はーい」
「呪いに関しては、自分が呪いに反応して色が変わる札を持っていますので、それでわかるかと」
「ほう、そんな物が」
「……最近呪い関係の案件が多いので、呪術士さんが作成した札が兵士に配布されていまして」
「なるほど。では、そちらはお願いします」
キーナが魔導具と封印の判別、ゲオルクさんが呪いの判別。
そして特に出来ることのない俺とパピルスさんが、どちらにも引っかからなかった包みを開けてチェックする担当になった。
「では、よろしくお願いします」
「了解。よろしくお願いします」
「よろしくー」
「……よろしく」
キーナとゲオルクさんが、プレゼントを端からチェックする。
そして両方のチェックを通過した物を、俺達が片っ端から開けていく。
黙々と作業を続けていくと、まずゲオルクさんの声が上がった。
「こちら、反応しました。呪物の可能性があります」
掲げて見せた札は、赤黒く文字が光っていた。
呪物はどのみち呪術士に見せないといけないので、グリッタランス爺さんの許可を得て、ひとまずゲオルクさんがインベントリに入れて預かる事に。
「こっちもー、多分これだと思う」
次にキーナが魔力の色がやたらと濃いらしい箱を見つけた。
これも魔法が爆発するようなタイプかもしれないので迂闊に開けられない。
パピルスさんが魔導具士に伝手があるとの事で、これも許可を得てパピルスさんがインベントリに収納。
「あ、これ封印だ!」
そしてさらに、キーナが封印されている怪しいプレゼントを見つけた。
「どれ……うむ、やはり無記名の贈り物か」
「名前はありませんが、カード付きですね……『憧れのお嬢様へ』」
「狙いはシャーロットお嬢様って事だねぇ」
封印はいつかのモンスター入りと同じ、時間経過で開くタイプだが、まだ余裕がある。
ひとまずそれの扱いは保留として、残りのプレゼントの確認を進めた。
「待って、このイースターみたいなカラフル卵の詰め合わせは何?」
キーナがさらに反応したのは、花とリボンで飾られた籠に、鮮やかな色でペイントが施されたいくつかの卵。
「それは結婚祝い定番の贈り物じゃな。子宝に恵まれますようにという飾り物じゃ」
「……ちょっと、この卵だけ離して様子見で」
カラフルな卵の中からひとつを手にしたキーナは、部屋の隅にそれを置き、離れた所から観察を始めた。
(……なんか前にもそんな事あったな。ミミックの卵だっけ?)
(そう。なんか【解析】で見た感じがアレにそっくりで)
予想は当たりだった。
少し待つと、色鮮やかな塗料を洗い落としたように、卵は銀色の球体へと変わる。
それを見て、俺達を除いた部屋の面々は顔色を変えた。
「うわ……なんですかそれ?」
「もしや、それが話に聞くミミックの卵ですか?」
驚くパピルスさんとゲオルクさん。
そして、グリッタランス爺さんが怒りに震えた声を上げる。
「おのれぇ……儂の孫娘になんという狼藉か。許さぬ……許さぬぞぉおお!」
「グリッタランス殿? ちょ、落ち着いてくださいグリッタランス殿! 他家の贈り物がある部屋で武器を振り回すのは危険です!」
剣を抜いて荒れ狂うグリッタランス爺さん。
必死にそれを止めようとするパピルスさんとゲオルクさん。
「お二人も見てないで止めて下さい!」
「えっと……ここで【木魔法】とか使っても大丈夫かなーって」
「……貴族相手に睡眠薬の粉とかばらまいても大丈夫かなーと」
「やっぱり何もしないで下さい!」
「森夫婦さん、意外と手段選びませんね……」
「ぬぉおおおー!!」
だってどう見てもレベル高そうなんだよその爺さん。
とりあえず、部屋に並んだ贈り物が破壊される前に止めることは出来たと言っておこう。




