ユ:パーティ会場に入りました。
バークル子爵家で受付を済ませて、俺達は披露宴会場となっているブロニ伯爵家の庭へと案内された。
……受付で記入する名前は通り名でも良いんだな。
まぁ確かにシャーロットもロナウドも俺達の顔も名前も知らないから、アバター名を書かれた所で分からないだろうとは思う。
キーナが招待状に書かれていた『鎮魂の魔女』と記名したので、俺もそれにならって『死の導き手』と書いておいた。自分で名乗るのはちょっと小っ恥ずかしい。
贈り物は受付で預けて庭へ出ると、俺達も余裕を持って到着したが、既にそれなりの客がいた。
半分くらいは結婚した2人と年齢が近そうな、ドレス姿の女性か軍服姿の男性だ。
主役の2人はまだ登場していない。
広い庭には白いテーブルクロスをかけた丸テーブルがいくつも置かれていて、立食パーティーらしく豪華な料理が並べられている。
さすが貴族のパーティ、盛り付けが華やかだ。結婚披露宴だからなのか、花の形に整えられた料理が多い。……同じくらいモンスターの形に盛り付けられた料理も多いな。
(わぁお、鹿っぽい料理には矢が刺さってるし、こっちのワニみたいな料理には槍が刺さってる)
(ワイルドな文化だ)
そのツチノコみたいな形に盛り付けられているのは、もしかしてトゥティノコゥの肉料理なのか? よく手に入ったな。
……さて、そうやってテーブルに目をやって現実逃避をしていたが、流石にそろそろ俺もキーナも周りの視線が気になってきた。
(……なんで僕ら、こんなにチラチラ見られてるんだろ?)
(……さぁ?)
会場に着いてから、何故か見られている。
不審者を見るような嫌な視線じゃなく、割と好意的というか……町中で芸能人を見つけた一般人みたいな反応が、何故か俺達に向けられていた。
何でだ???
多分だが、視線を向けてきているのはNPCだと思う。
でもそんなにヒソヒソ噂される覚えはあんまり無いんだけどな。
二人で困惑していると、そこへ男性が二人近付いて来た。
「どうも、お二人もいらしてたんですね」
「あ、パピルスさん」
「……どうも」
やって来たのはパピルスさんと、もう一人は初対面。軍服姿の黒髪男性だ。
初対面なのを察したのか、パピルスさんが紹介してくれた。
「お二方、こちらは『ゲオルク』さん。お城の兵士をされている方で、バークル子爵子息とは同期となります」
へぇ、つまり同僚か。
お互い挨拶を交わして、ゲオルクさんがプレイヤーである事も確認した。
……そして俺達が挨拶を交わした途端、周りのヒソヒソ声が増えた、
「……ふふ、さすがご夫婦の知名度ですね」
面白そうに笑うパピルスさん、呆れたような顔で頷くゲオルクさん。
「僕ら、そんなにNPCと関わってないんですけどね?」
「何をおっしゃいます。お二人共、貴族NPC間でも相当な有名人ですよ?」
パピルスさんが言うには、殉職した斥候クロウ達への貢献でまず城のNPC達の好感度が上がり、そこから魔術師団長へ有益な情報を色々と持ち込んだ事で、城で仕事をしている貴族達の間での知名度が堅実に積み重ねられていたらしい。
特に、夏のイベントでサメからシャーロットとロナウドを守った事が決定打だった、と言う。
「現役は退いたとはいえ、開拓神の聖人であるグリッタランス殿は人気が高いですから。その孫娘を助けた事で、そのグリッタランス殿が自らあちこちで機嫌良くお二人の話をしていましたよ」
「加えて、当人のロナウドも方々で同世代に語っていましたから……」
「親世代から城での評判を聞く事もあるでしょうし、貴族の若い世代は大体知っているのでは?」
マジかよ。いつの間にそんな高評価になってたんだ。
(あんまり貴族のいる所行かないから全然知らなかった)
(それな)
行ってもほとんど城だからな……城で会釈されるのなんていつもの事だし。
「商売人としては実に羨ましい限りです」
「……あー、ゲオルクさんはロナウド君の同僚で……パピルスさんは今日は?」
「私は新郎新婦の友人枠ではなく、ブロニ伯爵家とバークル子爵家の御用商人的な事をさせていただいているので、その関係の知り合いですね。強いていうなら貴族枠と業者枠でしょうか」
「……なるほど」
「ふふふ、お二人のおかげで私の評判も上がりますよ」
「? 何かしましたっけ?」
「こうしてお二人と挨拶させていただいたでしょう? 招待客の皆さんからすれば、『あの商人の新興男爵は、例の有名な夫婦にも顔が利くらしい!』と噂になるんですよ」
「「わぁ……」」
「好感度の高い方と好意的に接すると、『あの人が相手をしているなら安心』という具合に評判も上がるわけです。口コミみたいなものですよ。エフォはその辺も効果が出るから社交のしがいがあって楽しいゲームですよね」
「それをメインで楽しめるのはパピルスさんくらいだと思いますけどね」
ゲオルクさんの呟きに、俺とキーナは全力で同意した。
少なくとも、俺とキーナには絶対に向いていない遊び方だ。




