キ:披露宴当日、向かうは貴族街でございます。
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海の街でカイロウドウケツを買ったり、マリーの作った装飾の試着をしたりして数日。
今日は御招待されたお貴族披露宴の当日です。
この日のためにね、ちゃんと準備はしておいたのだ。
着ていく服は、いつもの森夫婦変装衣装に、刺繍入りのサッシュを追加。サッシュは少し濃いめの青緑に染めたから、肩から斜めにかけると雰囲気が引き締まってイイ感じ。
そしていつもは無地の仮面は、左頬頬の所へトライバルアート系の植物モチーフを描いた物をフォーマル用として装着。
身に着けた森夫婦フォーマルタイプを、お互いの姿で確認した。
「いいね、こういう民族っぽいね」
「うん、高級感が出てる」
さすがうちのマリーはプロの仕事よぉ!
褒めちぎって撫で回すとマリーは嬉しそうにはにかんだ。かわいい。
完成品を一緒に見ていたナナちゃんは僕らの変装衣装が気になるみたいで、練習を兼ねて同じ物を作って良いか聞かれたから、もちろん許可を出した。お人形に作ってあげるのかな? ナナちゃんの裁縫技術は順調に成長しているから将来が楽しみです。
そして持っていく御祝儀というか、お祝いの品。
これは海中の街『ビーナスのエビ籠』のお店で、お高い貴族向けなカイロウドウケツのランプを買ってきた。
中に珊瑚で作ったエビの人形が二匹入ってる縁起物。
まぁ分かりやすい結婚祝いの品だから誰かと被るかもしれないけど、有志wikiのアドバイス通り冒険者ならではの素材アイテムをもう一品として持っていけばガッカリはされないはず。
というわけで二品目は、綺麗で大粒のスターサファイアが二個。色を揃えて、新婚さんがお揃いの装飾品にしやすい素材として御提供です。
この2種類を、それぞれ綺麗にラッピング。
インベントリに入れて、準備はオッケー。
招待状に書かれているのは僕と相棒だけだから、今回は皆お留守番よろしくね!
招待状を持って、声変わりシロップを飲んで、いざ出発!
* * *
さて、まずは降り立つピリオノート。
披露宴の主役は、シャーロットお嬢様とお城勤めのロナウド君。
どっちも貴族。
つまり、会場は必然的に貴族街。
貴族街は無関係な平民や不審者が入れないように壁で囲まれた専用区画になっていて、出入口の門には衛兵がいる。
今回の僕らは、ちゃんと貴族から招待を受けているから、門の衛兵さんに招待状を見せれば、きちんと確認した後で通して貰えた。
こんな肌の露出ゼロな仮面の二人組でも通してくれるのはゲームならでは。
(地味に貴族街入るの初めてだね)
(そういえばそうだな)
そもそもピリオノートは大きな通りにきちんと石畳が敷かれている綺麗な街なんだけど、貴族街はちゃんとそこに輪をかけて綺麗に整えられている区画だった。
具体的には、花壇と石像が多い。
一般区画の花壇は縁をレンガで囲んだ簡単な物が多いんだけど、貴族街の花壇は高さのある石のプランター。それも細かな装飾付き。
道の左右にちょいちょい置かれてる石像も高級感がありますねぇ。
すれ違う馬車も、幌馬車じゃなく箱馬車しかいない。
そして立ち並ぶ建物はお屋敷だから、もう雰囲気が一般区画とは別物。
(……そういえば、夏に行ったオバケ屋敷は、貴族の家なのに貴族街じゃなかったな)
(あー、そういえばそうだねぇ)
そんな事もありましたね。
まぁやたら敷地広かったから、見栄のために広さを求めて一般区画の土地を買ったとか、その辺が理由じゃないかなぁ。
そんな風に念話で世間話をしつつ、犬の散歩中っぽい貴族婦人がお付と一緒に通ったのとすれ違ったりしている内に、僕らは目的地へ到着した。
お祝いらしく花とリボンで飾られた鉄の柵の中。
豪華で品の良いお屋敷が建っている。
シャーロットお嬢様はブロニ伯爵家の御令嬢で、ロナウド君のバークル子爵家にお嫁入りするから、お祝いはバークル子爵家がメインで行われる。
でもピリオノートのお屋敷は、シャーロットお嬢様のお爺ちゃんが開拓神の聖人な関係で、かなり早い内からブロニ伯爵家の邸宅が建てられた。
そしてバークル子爵家がこっちに屋敷を建てようとした時、それなら子供が婚約関係で親戚になるのだし……ということで、屋敷を隣に建てて庭を隣接させ、間の柵に扉を着けて行き来が出来るようにしたんだって。
で、庭は伯爵家の方が広いから、招待客も広々した方が良いだろうって建前で、伯爵家の庭のガーデンパーティで披露宴をする。
その本音は、両家の仲の良さをアピールするのが目的なんだって。『伯爵家とめっちゃ懇意だから、子爵家だからってなめたことするんじゃねーぞ?』って事らしい。
……そんな内容が、招待状と一緒に同封されていた手紙に書いてあった。
(だから披露宴会場の庭があるのはどう見てもあっちのお屋敷なんだけど……受付はこっちのお屋敷)
(ややこしい)
会場に辿り着くまでの関門が多いよ。
貴族って面倒くさいねぇ!




