ユ:欲しい人材がいない
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結局、予定に無い遭遇で、目的だった御祝儀用の宝石は早々に手に入った。
ただ、近場の街の宿はとってしまっていたし、クエスト納品用の宝石は収穫がゼロだったからな。残りの時間と次の日は、そのまま予定通りダンジョン内で宝石採取に勤しんだ。
「おー、そこそこのポイントになったね」
「だな」
さすが高額アイテム。それほど数が多くなくてもそれなりのポイントが稼げた。
ただ、経験値はドン底なんだよな。どうせなら両立する方法で稼ぎたいところだ。
とはいえ、まずはしょぼくれていたハリネズミ幻獣の希望を叶えるとしよう。
「じゃ、カステラさんに声かけるか」
「それしかないよねぇ」
というわけで、カステラソムリエさんが俺達の拠点にやって来た。
「……ああ、なんか前に検証勢が騒いでた【封印魔法】か」
経緯を聞いて、「そういえばそんなのもあったな」と呟くカステラさんは、続けて驚きの一言を口にした。
「アレって、封印を解くだけの魔法じゃないのか?」
「「えっ」」
カステラさんが言うには……いつぞや俺達がモンスター入りの封印を解いて見せた事で【封印魔法】の存在が明らかになったものの、肝心の封印が全然見当たらず仕舞いだったらしい。
「聞き込みをして何人か【封印魔法】持ちのNPCは見つけたんだが、どいつもこいつもクセの強い奴ばっかりなんだよな……好感度上がらないと教えて貰えなさそうだって事で、【解析】はあっても【封印魔法】は中々習得出来ないんだよ」
「へぇ~」
「で、なんとか覚えた奴らも、封印解除だけじゃなく封印しようとしてみても失敗演出が出るから、解除専用のスキルなんじゃないかって話になってる」
【封印魔法】、そんな事になってたのか……
そして話を聞いたキーナは、納得した顔で頷いた。
「覚えてもレベル上げが難しいもんね。しかも、スキルレベル20にならないと属性と混ぜられないし」
「あ、ひょっとして属性魔法と混ぜないと封印出来ないのか?」
「そだよ」
「なんだ、そういう事かー」
「って事は封印を解いてのレベル上げが必要なわけだけど……」
「その封印が無い」
ある程度プレイヤーの【封印魔法】レベルが上がれば相互にやり取りが出来るんだろうけどな……
「……もしかして、MMOだからプレイヤー同士でやり取りしてねって感じで友好的な高レベル【封印魔法】持ちのNPCが少ないのかな?」
「……どうかな」
まぁなんにせよ、現時点でレベル20以上の【封印魔法】持ちプレイヤーは全然いないと思った方が良さそうだ。
ハリネズミ幻獣の望みが叶うのはもう少し後だな……
「そもそも嫁さんの方はどうやって習得したんだ?」
「えっとね……まず職業が魔女になった事で【解析】を覚えてて、本国の王様からのご褒美で封印されてる謎の筒を貰って、それを解いたら覚えた」
「……王様って関わってくるんだな……」
カステラソムリエさんは種族がアリストフェアリーになっているから、【解析】は習得済みだ。
なので、キーナが作った封印を解く事でスキルを覚えられるかどうか試してみる事になった。
「難易度どれくらいがいい?」
「難易度とかあるのかよ」
「これパズルゲーム要素だから。やろうと思えば難易度ベリーハードも作れると思うよ!」
「……とりあえずイージーで頼むわ」
ちなみに俺はパズルゲーム要素って聞いて覚える気は無くなった。音ゲーはともかく、パズルゲームはあんまり得意じゃない。キーナがやりたがるし、封印関係は任せる。
キーナはとってあった容器と輪を取り出した。
魔眼が封印されていたそれは、封印を解いても壊れたりしていないから練習用に使い回すにはうってつけだ。
容器に輪を嵌めて、魔法を唱える。
「【ダブルクリエイト】」
【火魔法】と【封印魔法】の混合。
輝石に赤い光が宿り、赤くて細い炎の糸が輝石から伸び上がって容器にグルグルと巻き付き、所々で結び目や編み目を作って、見えなくなった。
「はい、指でも道具でも属性付与した物じゃないと解けないから気をつけてね」
「どーも。【解析】……うわ、こんな感じか……」
「ハサミで切りてー……」とブツブツ呟きながら、カステラさんは封印を解除。
「よし、【封印魔法】覚えた」
「おー、プレイヤーの封印でもいけるんだね」
「……まぁプレイヤーが書いた本でもスキル覚えられるし」
その辺、エフォは融通が利く。
スキルを習得して育てていれば、プレイヤーでも師範になれるって事だ。
カステラさんはしばらく自分のステータスを腕組みしながら眺めて……そして俺達に目を向けた。
「……なぁ、MP回復のアイテムは提供するから、これ量産してフリマで売る気は無いか?」
「んえ?」
「……あー、なるほど」
使い所が意外と多い……というか、敵対組織の誘拐犯達が【封印魔法】を使っている上に、今回のドラゴンと幻獣が『滅び』をどうにかしようとしていて【封印魔法】が有効かもしれないとなれば。スキル持ちがプレイヤーに多いほど有利になるかもしれない。
「次のフリマの日程は出てる。春イベントが終わった後」
「って事は……去年の初回と同じ時期かな?」
「そういうこと」
「……相棒、量産出来そう?」
「んー、多分大丈夫」
とはいえ、今はまだ春イベントの真っ最中だ。
カステラさんも俺達も、お互いポイント交換で欲しいものがあるから、終わってからの話だな。
ハリネズミ幻獣が抑えてる『滅び』も、そんなに緊急性のあるものじゃないし。
とりあえずカステラソムリエさんは『パズルの難易度で経験値が変わるか試したい』って事で、キーナ渾身の高難易度封印を受け取って帰っていった。




