ユ:唐突な天使のお告げ
そういえば感想1000件超えてました。ありがとうございます。
空から聞こえてきた謎の声。
ラウラさんとアルネブさんは特に慌てた様子もなく、その声がする方向へと顔を向けた。
「こ、こちらですー!」
返事が聞こえたのか、何かがこっちに向かって飛んでくる。
それは最初、白い鳥のようにみえた。
というのも……白い翼が羽ばたいているのが見えたからだ。
……が、近付くにつれて、胴体の形がおかしい事に気付く。
真っ黒で……丸い……丸いな? 頭も尾も無いくらい丸いな?
どう見ても黒い球体に白い翼がくっついているようなそれは……
……どう見ても、ウニに純白の羽が生えていて光る輪が乗っている謎の生物だった。
「ウニだ!!」
「何だあれ……」
ウニは真っ直ぐに飛んでくると、ラウラさんの正面でホバリングする。
「ウニ先輩、どうしました?」
ウニ先輩!?
……これアレか、元々ここにいるNPCの天使なのか!?
目が点になった相棒がアルネブさんに目を向けると、アルネブさんはとてもイイ笑顔で首肯した。
そっかー……ヒトのいない世界の天使だからこうなるのかー……
いや、天使って結構そういう描かれ方する事もあるからな……
飛んできたウニ天使は、コメディっぽい動きで上下に動き苛立ちを表現している。
「どうもこうもない! 襲撃であるぞ! 迎撃の準備をするのだ!!」
言い放った言葉は、コメディ感の欠片もない内容だった。
* * *
『神域の前庭』の『豊穣花壇』にある『麦野原』
この現在位置が示す通り、ここは神域の前にある庭で、ラウラさんの職業が『ゲートキーパー』となっている通り、ここからは見えないが、ずっと奥には神域へと至る巨大な扉があるらしい。
そんな神の居住地一歩手前の場所に、襲撃に来ているのはなんなのか?
──『前庭防衛パーティ』より参加要請
──受諾しますか?
畑の手伝いだから必要なかったパーティを申請に応じて組む。
ラウラ・アステロイド
アルネブ
キーナ
ユーレイ
そして、そこにNPC参加者として『ジャック』『デュー』『ローズマリー』、さらに『海胆の大天使』が追加された。
「ふむ……ヒトの子と、身体を得た死霊か。お前が援軍を連れてくるとは、珍しい事もあるものだ」
「こ、今後は、数名御助力頂ける予定です!」
「ほう、門の守りが強固になるのは助かるが、妙な輩は入れるでないぞ?」
見た目はゆるキャラみたいなウニだが、渋いオッサンの声で話す堅苦しい口調は真面目キャラでよく聞くそれだ。……どうしてビジュアルにウニをあててしまったんだ。
「今回動ける天使は10だ。そしてちょうどよく巨木等というわかりやすい目印が出来たようだからな、ここを中心に動くぞ。襲撃者も真っ直ぐにこの巨木を目指しているのは確認済だ」
「え、ええっ!? 私の家をですか!?」
「門を狙われるより余程良いわ。出来の良い囮、お手柄だぞ天使ラウラよ」
ラウラさんがシワシワの表情で「ありがとうございますぅ〜……」と不本意そうな礼を言う。
……そうだな、メインストーリーやワールドクエスト的にも、神域に繋がる門から敵の意識が逸れるのは確かにありがたいんだが……失敗するとラウラさんの新築の自宅が消し飛ぶんだよな。
「……敵ってすぐ来ます?」
「む? ……もう少しかかりはするが、そこの【星魔法】の使い手はいつも通り先行した方がよかろう」
「そうね、それこそ新築の近くで【星魔法】はあんまり撃ちたくないわ」
なるほど、そういう事なら……ここまで来るにはもう少し時間があるな?
「相棒」
「なにー?」
「俺達はちょっと防壁作ろう」
「うん? でも石とか置いても下から麦がムギムギしちゃうんでしょ? まぁ……いっぱい積めば石がズレたりしないのかもだけど……」
「『死の海の水』を使う」
「……ああ! なるほど!」
『緑の蛇精霊』の根城である精霊郷でさえ不毛の地にする死そのものだ。防壁の下だけ、麦に死んでもらえばしばらくはいけるだろう。
ついでに言えば、俺は【土魔法】のレベルが上がって【石魔法】に手が届いた。
【建築】スキルを使うより、余程早く防壁は組めるはずだ。
「……なるほどね、『奈落』に流れていた水なら確かにここの麦をおとなしくさせられるかもしれないわ」
「よ、よろしくお願いします!」
「後は……アルネブさん、迎撃って徒歩で行くんですか?」
「いいえ、ラウラに頑張って運んで貰うのよ」
「……ネビュラに乗って行って下さい。そうしたらラウラさんも戦える」
「あら、いいの? ありがとう」
『死の海の水』を使う事を、念の為ネビュラとウニ天使にも確認して許可を取った。
迎撃に向かうラウラさんとアルネブさん、それとネビュラとウニ天使を見送って、俺達は拠点の守りを即席で固める作業にかかる。
樽ごと取り出した水を、ジャック達にも手伝って貰って、巨木の家を含めたある程度の範囲を囲むように撒いていった。
……かなり遠くから、地響きと微かな揺れが届く。
早速アルネブさんが暴れているらしい。
急ごう。
「早速『夢繋ぎのMPポーション』の出番だね」
「まさか俺が最初に必要になるとは思わなかった」
【石魔法】で防壁を作るのに、出来るだけMPをポーションでリロードする回数を減らすために俺と相棒のMPを合わせる。
「【ロッククリエイト】」
地面から立ち上がる、分厚く切れ目のない石の壁。
二重に立ち上げて中を【土魔法】で埋めて、上部に軽く返しを入れれば、少なくとも四つ足の動物はそう簡単には入れない。
内側に外の様子見が出来る見張り台を作れば、急ごしらえにしては良い方だろう。
……そこへ、戦況を確認に行っていたベロニカが戻ってきた。
「そろそろ来るわよ!」
「了解」
相棒とマリーは見張り台へ、残りは防壁の上に陣取った。
……麦畑の向こうから、黒い何かの群れが、隕石で消し飛ばされつつ、その死骸を乗り越えて迫って来るのが見えた。




