#13 紛イ物ハ偽リ者
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first memory 9
『紛イ物ハ偽リ者』
全ての母であり、父である。創成の神がいた。
その全能の神でさえ、自ら作り出した時という理には逆らえず。
神は他の世界の神を覗いた。
そして神は八百万の神を知った。
それを真似ようと自らの力を試しに7つ切り分かつ。
次いで6人の騎士と1人の赤子の命が芽吹いた。
彼らは自らを政圀騎士団と名乗り神に忠義を誓い申す。
神は残り少ない余命で騎士団と赤子を連れて旅をした。
神は力なるものを切り離し、旅の先々で植える。
そして旅の果てに神は死んだ。1人の騎士の手によって。
神は命尽きる間際に赤子と一緒に力をあらゆる世界に散らす。それは神の力の一部に過ぎず。
騎士は残りの神の力全てを奪い尽くした。
その時世界は無数に砕け散り。
騎士は残りの騎士団の内4人の力を奪い殺し、残り2人は天から追放した。
そして残った騎士は言った。私こそ真の神だ。
その後4日間混沌が降り注ぎ、ニィールを産んだ。
□■□■
「これが今から250年ほど前の話になります」
ぼけーっと話を聞きいて居ると隣の席に座っていた少女と目が合う。
そっと微笑みかけると、少女は嬉しそうにはにかみながら自分の持って居る縫いぐるみを見せてくる。
「おい、夏比、話を聞いるのか」
急に自分の名前が上がり方が自然と強張る。
「聞いてたよ。200年前か、丁度俺らの世界でいう江戸だな。神が代替わりしたのは意外と最近か……この世界の生い立ちについてもっと知りたいんだけどこの世界軸が生まれたのがその250年ほど前なの?」
和馬に向けたはずの問いを今田さんが拾ってくれる。
「いいえ、違います。あくまでこれは今の神の話。前の神は20万年は生きていたそうで、そこまで来ると我々も文献を探すのが難しくて……ですが、我々は先代の神が私達の世界の創造主だと考えています」
20万年? それは若過ぎないか? 本当に創造主なら500万年前にアイスランドピッケルみたいな名前の猿産まないと人に進化しないよ?
この世界の歴史と自分の世界の歴史の相違に疑問を抱いていると、和馬が補足説明を入れて来る。
「今の神とやらが自分が神となる時に過去の記録をほぼ全て消しとばした。今ある資料だけでは20万年程しか遡れない。俺らが解るのは昔の世界では世界は1つだったってことだけだ」
こちらに向いて話していた和馬が一呼吸を置いて次は今田さんに向き合う。
「問題はそこじゃ無い。問題は、神への謁権をどう手にするかだろ? 神が騎士団を設立したんだ。絶対鍵は騎士団にある」
「はい。なので現代表に協力してもらうのが確実でしょう。それに関しては城崎殿と私、私の班員並びに騎士団に数名潜伏している席官の反発性抗議群の名前を使い、天羽代表に会えるところまでは確実でしょう。ただし、代表が何も無しに御力を貸して下さるとも……そもそも、代表が神への謁権を所有して居るかどうかも解らないので」
言葉を紡ぐに連れて自信をなくして行く今田さんの発言に和馬がニヤリと口角を上げる。
「そこまで出来るならば上出来だ。神への謁権の場所さえあれば……」
いい感じに話が纏まろうとしたその時背後から大きな声で会話を遮られる。
「おまちぃ〜! あっちぃ〜! てんしょうとくせぇいぶぅれんどこぅふぃで〜す! 冷めない内に飲んじゃって下さいよぉ」
声の主は先程店に入った時に案内をしてくれた店員だった。まって! そんな言い方したら和馬くんのイライラゲージが……!
案の定和馬の表情がいつもよりもしかめっ面になり、店員を睨みつける。
「おい、しょうなの店員」
「ぶほっ! ……ぱっ!」
和馬くんが真顔で面白いことを言うからついつい笑ってしまった。というか笑ったぐらいで頬を叩かなくてもいいじゃん!
「俺はらは誰も頼んじゃいない。お前も反発性抗議群だろ? 反発性抗議群が騎士団の特武にわざわざ近づいてきて何のつもりだ? 騎士団員の殆どが反発性抗議群を敵対視していて、他の地域では差別が行なわれている。その状況で俺らに接触する意味が解っているのか?」
確かに騎士団に対立する反発性抗議群は、元々騎士団の酷い行いに耐え切れずに身を寄せ合って出来上がった集団だ。
騎士団に対して恨みさえある人間が、今田さんという自分達側のスパイと一緒にいるというだけで、自分達に害をなすかもしれない人間にそう簡単に近づいたりはしない。
「ちょっと待ってくださいよぉ! なんで? なぁんでしょうなるの? 今田さんが連れて来るってだけでぇ、もぉう、信用するしかないっしょ! てっぺん取るっしょっ!」
台詞に合わせて動いてみせるしょうなの店員は、てっぺん取るっしょ! に合わせて上げていた手を降ろし、テーブルにある領収書をそっと自分のエプロンのポケットにしまう。
「それにコレは俺らの奢りっしょ! 俺達の事、しゅくってくれるってぃいうのにぃ何もしないのはおかいっしょ!」
それを聞いた和馬はしばらくしかめっ面でしょうなの店員を睨んでいたが、そっといつものしかめっ面に戻り珈琲を口にしようとしたその時、勢い良く店の扉が開く。
「ぜんんいんんっ! そこを動くなっ!」
店内に響き渡る怒声と共に真っ白の綺麗なトレンチコートを身に纏った政圀騎士団と思われる兵士達が店内へなだれ込んで来る。
その瞬間和馬が俺の前に腕をかざし、2本の指だけ立てる。
「【薄影】、【金縛止】」
和馬が何かを唱えた途端ふと緊張していた心が妙に落ち着き、冷静になると同時に、全身に釣り糸を張り巡らされている様に身体の自由が効かなくなる。
俺が何かに動きを止められる中、トレンチコート集団のうちの1人、その男も白いトレンチコートなのだが服装が他と違う。
右側の襟元だけ畳まれておらず左側の襟元へ伸びて居た。その折られた線に沿って右側だけ薄いベージュに染まった変わったトレンチコートを羽織る白髪のメガネがそっと前へ出る。まさか、こいつ……! オサレさんか!
「私、政圀騎士団第3局、局長並びに、政圀騎士団付属畏物研究開発機関統括責任者、命無 名取の権限を保ってSSレート噐灰、児夫喰を3局廷内から盗んだ疑いで第6局所属、今田班班長、今田 綾女清二郎3曹をSSレートと認定しこれを逮捕する。周りの市民は全員避難を完了。店の外には第2局の増援が店を取り囲んでいる。もう、わかりますよね? 今田さん……あまり、抵抗しないで下さい。僕だって……民間人を傷付けたくはない……!」
ななななななとりさんて……な・ま・え! 笑いそうになるのを必死で抑えていると和馬に睨まれる。ごめんなさい。
「な……なぁ、局長さんヨォ……嫁と子供だけは先に逃しちゃくれねぇか……? まだ子供が産まれたばかりなんだよ!」
なななさんに男が必死の形相で飛びつく。
「……分かりました。浅田さん彼の親ぞ……」
なななさんが部下に指示を出そうとした瞬間、乾いた音が響く。
何処かで聞いた音。それは昨日和馬に俺が向けた音。
血塗れになり倒れる音。なびく白いトレンチコートが赤を叩いた。
「?! おい! なぜ撃った! 何してやがる! 発砲許可など出してないぞ!……くそっ! 今すぐ医療班を……!」
振り返り、発砲した兵に詰め寄り胸ぐらを掴むなななさん。
それを眺めて居た俺を和馬は優しく小突く。
「夏比……【電波線】をいつでも発動できるようにしておけ」
俺が小さく頷くと和馬は視線をなななさんの方へ戻す。
俺が和馬から視線を外すと丁度発砲したトレンチコートがなななさんの手を振りほどいていた。
「辞めましょうよ。命無局長。動くなと言ったのに動いたのはそこのクズだ。それに……発砲許可ぁ? 受けてますよ! 第1局局長天羽代表からねぇ!」
発砲したトレンチコート男は懐から一枚の紙を出してなななさんに見せつける。
「うぅ……あがっ……はぁ……はぁ……」
倒れた男が必死に這いずり、なななさんの裾が赤く滲む程強く握る。
なななさんが倒れた男の方へ振り向こうとした瞬間もう1度、なななさんのすぐ近くから発砲音がする。
にやりと笑うトレンチコートを睨み、なななさんが懐に手を忍ばせた瞬間、次は俺の近くで乾いた音が鳴り響いた後、トレンチコート男の悲鳴が聞こえた。
「がぁぁぁぁぁ! …………ふぅー。ふぅーっ!」
今田さんが肩で息をしながら拳銃を構えていた。
「はぁ……! はぁ……! はぁ………もう、いい。もう十二分にわかった! 悪い……名取くん。どうやら僕はもう、この世界を許せそうにない!」
撃たれたトレンチコートは血が滴る左腕を必死に抑え今田さんを鋭く睨む。
頭に穴が空いた男はなななさんの裾を掴んだままもう動かない。
「喰らい尽くせ。
『児夫喰』」




