第36話 試行錯誤
「お兄さま、里桜さまがお兄さまの誕生日を祝いたいと仰られていますけど、どうしますか?」
タイムリミットが三日後に迫ったとき、愛利奈がそう聞いてきた。
そうか、里桜さんが言い出したことだったんだな。
現時点で大きな進展も無いし、赤城医師の動きもない。
それは決してよいことではない。このままでは、茜色の夢の通りになってしまうのだ。
「んっと……うーん……」
俺は考えにふける。
単純に延期すれば、タイムリミットを引き延ばせるのではないか、と。
これは元々考えていたこと。
愛利奈の自殺は、事件の発動条件が分からなかった。
今回は、犯人や殺害時刻、もっと言えばその方法まで明らかになっている。
今のところ大きなミスもないので、早まることはない。
「それって、 一週間遅らせられないかな? その日、ちょっと用事があって帰るの遅くなるから」
「用事ですか……しかも一週間も。ちなみに何時になるのです?」
「夜八時。そんな時間から始めることなんて無理でしょ?」
「まあ、さすがにそれだと遅くなってしまいますし……分かりましたわ。じゃあ、一週間後で里桜さまに話してみます」
愛利奈に任せておけば大丈夫、と予想したとおり、
「お兄さま、里桜さまと話をしましたので、一週間後の予定を空けておいて下さいませ」
と愛利奈が教えてくれる。
うまく、伝わったようだ。
これで一週間、猶予ができた。
何か進展があれば、また同じ手を使って、期日を延ばせば良い。
そして……無事変わることを期待して、眠りにつく。
……茜色に染まる夢を見ていた。
十二月二七日。今日は本来なら、里桜さんが言い出した俺の誕生日パーティが行われるはずだった。
しかし、用事があると俺が言ったため、一週間後に延期された。
そのため、今日は何も無い訳だが……。
本来なら、パーティが行われている時間、午後七時。
俺は、一人でインターネットカフェにいた。
用事があると愛利奈に言ったけど、もちろんウソだ。とはいっても無駄なことをする暇はない。
俺は相変わらず、ネットで痕跡を探していた。
悟さんの記事、そして非公開動画があるアカウントのパスワードだ。
ネットをひたすら調べたり、ここにある雑誌のバックナンバーを探して読んだり。
しかし、結局徒労に終わってしまった。一つの成果もなかったのだ。
まあ、地道に調べていこう。
俺は、家路につく。愛利奈に言ったとおり、だいたい夜八時頃に家に着くようにカフェを出た。
自宅に戻る。
入り口のドアを開けて、玄関に入る。
うーん、おかしい……。いつもと違い、リビングの電気がつけられていないのが、ドア越しに分かった。
まさか……。
俺の心臓が高鳴り、リビングのドアを開ける。
部屋は真っ暗だ。俺は電灯のスイッチに手を伸ばした、その瞬間——。
パン、パン!
電灯が付くのと同時に、色とりどりの紙吹雪が目の前に舞った。
「誕生日、おめでとう!」
「えっ……」
見ると、愛利奈と里桜さん、そして母さんがクラッカーを持っていた。
び、びっくりしたぁ。
「ど、どういうこと?」
俺は呆然と戸惑いの言葉を吐く。
リビングの壁には色紙で飾り付けがされていて華やかだ。
愛利奈は赤と白のサンタコスプレをしている。ミニスカートに黒ストッキング……色使いはともかく、バニーガールっぽい。
里桜さんは、白いニットワンピースだ。身体のラインが出ていて、視線のやりばに少し困る。
「「サプライズ、成功う!」」
里桜さんと愛利奈が、両手を合わせ、ぴょんぴょんと跳ねている。
とても楽しそうで、俺はそのテンションについて行けていない。
「あ、ありがとう」
俺は動揺する。
こんなハズじゃ無かった。
サプライズ……。確かに、驚いたけどそれ以上に……。
ゴロゴロ……。
遠くで雷の音がする。
時計を見ると、八時を過ぎ五分だ。
……まさか。
俺は、確かめたいことがあった。
「愛利奈、やっぱり里桜さんからサプライズしたいって言い出したのか?」
「そうですわね。どうしてもやりたいって里桜さまが仰いました……付き合っているから、最初の誕生日は華やかにやりたいって」
「もっと遅い時間でもか?」
「ええ。里桜さまは何時間も待つつもりでしたわ。お兄さまと付きあえたことが、本当に嬉しかったのでしょう」
愛利奈が溜息交じりに答えた。
付き合っているから……。それが嬉しくて……。
ドン! という音がして、部屋が真っ暗になった。
えっ、という戸惑いの声の後……。
「きゃああああ!」
突然、母さんの悲鳴が聞こえた。
同じリビングの中からだ。
そして……俺は大きな衝撃と共に、意識を失った——。




