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第35話 痕跡


 しばらくして里桜さんが落ち着いた後、彼女と手を繋いで家まで送っていく。

 次第に暗くなる空と街並み。

 それでも、確かな温もりが俺を包んでくれる。


 あれ? でも俺、里桜さんから好きって聞いてないような。

 でも、これから茜色の夢の問題を解決すれば、いくらでも言ってもらえる。

 それをご褒美に頑張っても良いかもしれない。


 根拠は全くないけど、あともう少しで解決できるような気がする。

 その鍵を握るのは、やはりあの非公開の動画だと思う。



 俺は、念のためと思って、里桜さんの家に上がらせて貰った。

 以前、彼女の部屋にまで上がったことがあるので、もう何の抵抗もなかった。


 両親の帰りは遅いらしく、里桜さんは嬉しそうだ。



「悟さんの部屋ってもう無いの?」


「いえ、まだありますけど、でも今は何もありませんよ?」


「見せて貰うことってできるかな?」


「うん……いいですけど……?」



 里桜さんは、俺を悟さんの部屋に案内してくれた。

 綺麗に片付けられ、ホコリやゴミなどはない。色々と悟さんの持ち物があるけど、整頓され棚に並べられていた。


 PCがあるけど、電源を入れても起動しない。

 中身が消去されている。


 スマートフォンがあったけど、これも中身が全部消されていた。



「誰かが消したの?」


「ううん……残っていたハズなんですけど、いつのまにか消えていて……」



 勝手に消えるなどということがあるだろうか?

 あまり詳しくないから分からないけど。



「里桜さんって、一通り荷物のチェックしたの?」


「えっ……う、はい……実は……」



 ちょっと気まずそうに里桜さんは顔を伏せる。

 でも、気持ちは分かる。俺も今似たようなことをしている。

 悟さんを好きだったのなら、半狂乱になって自殺の原因を探したのだろう。

 多分、俺なんかがするより徹底的に。



「荷物とかノートとかメモでもいいんだけど、何か悟さんがパスワードにしそうなものってあるかな?」


「うーん……誕生日とかでしょうか?」



 もちろん、誕生日や名前の組み合わせは最初に試した。

 とはいえ十分とは言えないし、もっと確信が欲しい。



「一般的だよね。でも今時は、数字だけじゃダメだし……」


「どうしてパスワード? なんですか?」


「い、いや……」



 確かに俺はすごく不審なことを聞いている。

 亡くなった人のパスワードなんか、聞いたり推測してどうするつもりなのか。


 非公開動画のことを伝えようかとも考えたけど、危険だ。

 里桜さんはいまだに、赤城医師に近い。

 何かのきっかけで確信に近いこの情報が赤城医師に伝わったら……。



「ごめん、どんな人かなって思って」


「ああ、悟兄は……うーん正義感が強かったと思います。曲がったこととか、悪いことが嫌いで……」



 正義感、か。悟さんと赤城医師が揉めていたのは、その関係なのだろうか。

 赤城医師も表面的にはまっすぐな性格だと感じたけどそうではなかったのだ。



 しばらく、悟さんとのエピソードを聞いて過ごした。

 しかし結局、パスワードの情報は何も得られなかったのだった。


 部屋を探したという里桜さんすら分からないことを、俺が見つけられるはずもない。


 しばらくして、俺は帰ることにした。

 俺との別れを名残惜しそうにしていたけど、その気持ちが嬉しかった。


 明日からも会えると説得して、ようやく家の中に入っていく里桜さんを見て、随分甘えん坊になったなと思ったのだった。



 ☆☆☆☆☆☆



 色々とパスワードのことを調べたり赤城医師のことを調べたりするのだけど、何も分からないまま時間が過ぎていく。

 夢の内容は変化が無い。


 結局、何も進展が無いまま、誕生日の三日前になってしまったのだった。


 タイムリミットが近い。

 俺はこういうときのために、一つ考えがあった。

 それを実行に移すときがきた。


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