第26話 信頼
すぐ駆けつけてきてくれた警察官に男はすぐに逮捕された。未成年略取とか、そんな罪状だったと思う。
里桜さんや愛利奈は動揺は大きかったものの、身体に怪我は無かった。
二人とも怖い思いをしただろうに、警察の調べにも元気に答えているようだ。
俺も一通り警察の人に話をした。母さんが迎えに来てくれて、家に帰に向かう。
外はもう暗くなり始めていた。あっという間の一日だ。
「愛利奈が時間を稼いで、アイツの気を引いてくれたおかげで倒すことができた。ありがとな」
帰りの車の中で、愛利奈に感謝する。
人前で肌をさらすのを嫌だと言っていたのに、それをしてまで俺のために時間を稼いでくれた。
信頼関係を気付いていなかったら、同じ結果になっただろうか?
「当たり前ですわ。それに、信じていましたから」
「何を?」
「そ、その……お兄さまが必ずなんとかして下さるって」
そう言って、耳まで真っ赤にしてそっぽを向く愛利奈。
俺もあの時、愛利奈のそんな想いを受け取っていたのだろう。迷い無く行動することができた。
「あら、二人とも随分仲良くなって……もう、大丈夫そうね。それにしても、愛利奈はお兄ちゃん子に戻ってしまったわね」
「そ、そんなんじゃ……そうかもしれませんわ」
愛利奈の様子に、俺の口元が緩む。
愛利奈との関係が子供の頃に戻ったのが嬉しい。いや、それ以上に、深い絆を感じる。
だからこそ、里桜さんを救えたのだ。
☆☆☆☆☆☆
数日が過ぎた。
あの男は、以前から盗撮をしていたようだ。
カメラに納められていた大量の女生徒を隠し撮りした画像が発見された。余罪を追及されているらしい。
あの男は俺たちの行動をドローンを使ってずっと監視していたのだ。
同じ電車に居合わせたのは、偶然じゃないだろう。
愛利奈が死ぬはずだった夜、刻限の前に愛利奈にLINEを送ったのはあの男だった。
メッセージは削除されていたと愛利奈は言った。
愛利奈は俺の隣で眠っていたのだけど、もし一緒にいなかったら外に誘き出されて……自殺に見せかけて殺害されたということだ。
そう思うとゾッとするが、夢を見た俺の行動の変化がそれを阻止したことになる。
茜色の夢で見た里桜さん殺害はあの男によるもので間違い無いだろう。
実際ナイフも所持していたし……彼女が刺されたのも公園だったはずだ。だとすると、どうしてその時期が早まったのか?
滅多刺しから自殺への変更も気になるが、もう今となっては確かめようがない。
いくつか疑問が残る。もっとも、犯罪者の思考なんてまともに考える必要などないのかもしれない。
事件は解決したのだ。これ以上思いを馳せる必要は無いだろう。
マスコミだけど、俺たちへの配慮か、かなりぼやかされて報道されていた。
しばらくは学校の周辺に報道関係者がいたけど、すぐに見かけなくなったらしい。
もっとも、俺と愛利奈、里桜さん共にしばらく休むことにしたので、それは後から知ったことなのだけど。
「で、なぜ俺の教室に集合してるの?」
俺たちが久しぶりに学校に行った日の昼休憩の時間。
愛利奈と里桜さんが俺がいる教室にやってきたのだ。
「いいではありませんか、お兄さま」
「先輩……だめですか?」
愛利奈は、勝手に俺の前の席から椅子を借りている。
里桜さんは同じようにして俺の隣に座っていた。
二人とも周囲のクラスメートや教室の中を見渡し、目が合うと軽く会釈をしていた。
その可愛らしい様子にクラスはざわつく。
しかし視線が痛い。女子もだけど、特に男子からの視線が。
二人とも中等部の制服を着ているので目立つのだけど、理由はそれだけではない。
「あの二人、中等部の子だよね? レベル高くないか?」
「片方は上高の妹らしい……あんな可愛い妹羨ましい」
「もう一人は誰だ? 見たことがないような……あんなに美人なら覚えていそうだけど……」
あーあ。これは二人が去った、後根掘り葉掘り聞かれる奴だ。
溜息をつく俺を放置して、二人は楽しげに話をしている。
「それで、愛利奈ちゃん、私に見せたいものって何?」
すると、愛利奈は腕まくりをして、手首にぶら下がっているもの見せて、ドヤァという表情をする。
「じゃーん、これは何でしょう?」
「あっ、それ……私のミサンガ?」
慌てて里桜さんは制服をずらし自分の手首を見た。そこには、里桜さんのミサンガが当たり前のようにぶら下がっている。
「あれ? じゃあ、それは……」
愛利奈は簡単に経緯を説明した。
週末の小旅行。ストーカーのことは隠しつつ、うまく説明している。
一通り話すと、愛利奈はミサンガの結び目を解こうと、自らの手首に手を伸ばした。
「——そういうワケなので、里桜さまにお返ししますわ」
「あ……ううん、それ愛利奈ちゃんが持ってて」
「えっ、いいの?」
「うん。愛利奈ちゃんとお揃いがいい」
そう言って、里桜さんは愛利奈をぎゅうっと抱き締めた。
「も、もう……里桜さまったら……」
愛利奈は不意の抱きつきに、顔を赤らめて戸惑っている。
「愛利奈ちゃん……大好き」
里桜さんの距離感がおかしいけど、まあ最初からおかしかったな。先日の愛利奈が里桜さんのために文字通り一肌脱いで時間を稼ぎ、里桜さんを守ったことも影響しているのかも知れない。
しかし、なんだこの尊い風景は。
二人の様子を見て、なんだかこっちも恥ずかしくなってきた。
クラスメートたちも、顔を紅潮させ「いい」……などと言っている。
「それに……先輩も……」
里桜さんは愛利奈に抱きつきながら、うっとりとした瞳をして俺の手を掴んだ。
ちょっ……。
クラスメートから「上高、お前挟まるな」と言うヤジが飛ぶ。
里桜さんは愛利奈の手首に自らの手首を寄せた。
並べて見ると、ミサンガに描かれている模様はほぼ同じように見える。
「ん?」
一瞬、並べられた二つのミサンガに何か別の模様が見えたような気がした。
しかし、もう一度目を凝らして見たものの、気のせいだったようだ。
俺は疲れてるのかもしれない。
「ねえ、三人でミサンガ撮らない?」
そう愛利奈が提案した。
俺と里桜さん、愛利奈と並んで、それぞれ腕を揃える。俺と里桜さんから貰ったミサンガと里桜さんにあげたミサンガを並べる。その横に、愛利奈と里桜さんの同じミサンガを並るように腕を揃える。
里桜さんが俺にくっつき、その肌の温もりにびっくりした。
当たり前だけど、愛利奈と感じ方が全く違う。妙にドキドキして、気持ちよくて……。
「で、誰が撮るのです?」
「じゃあ、俺が撮影するよ」
カシャッ。
里桜さんの近さと、その笑顔にドキドキしながら、撮影を終えた。
二人に写真を転送する。
「分かってると思うけど、SNSに投稿するのはしばらく我慢な」
二人はこくりと頷く。
一応、まだマスコミが見ているかも知れないし俺たちのSNSには何も情報を上げていない。写真などもってのほかだ。
「じゃあ、そろそろ時間ですので私たちは戻りますわ」
「先輩、失礼します」
そう言って、手を振って二人は中等部の部屋に帰っていった。
二人とも、一体何しに来たんだ……?
嵐のようにやってきて去って行く愛利奈と里桜さん。
午後の授業が始まるまでの僅かな時間、俺はクラスメートたちのいろんな感情の込められた視線に晒されたのだった。
☆☆☆☆☆☆
ストーカーに里桜さんが襲われる茜色の夢は見なくなった。
病気も快方に向かっているし、あとは春を待つだけだ。
もう何も心配することはない。
再び、あの幸せな茜色の夢を見れたらいいな……と願いながら、俺は眠りについた。
もう、ドキドキする夢は懲り懲りだ。
……茜色に染まる夢を見ていた。
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