第15話 気付き
「変な所があるんです?」
「これとこれとこれ、同じ位置で撮影してるような……
大きさやや切り取り方が違うだけで」
その男性は三つの写真を順に指さした。
その写真の背景は、家の近くのコンビニが映っていたり、映っていなかったりしている。一見バラバラの場所のようだが、指摘されてやっと気付く。
「確かに、同じ場所を撮影している……」
その三枚とも、同じ日付かどうかは不明だ。どれも曇り空で、映っている俺たちに差が見られない。
もっとも、里桜さん以外、俺と愛利奈は見切れている。
「気付いたのは、それくらいですかね」
「ありがとうございます。助かります。とても参考になりました」
お礼を告げると、すっと男性は立ち上がった。
「こちらこそ、大変可愛らしいお嬢さんの写真を撮影できて楽しかったです。
また、何か機会があれば、御一緒できればと思います」
「あ、もう行かれるのですか?」
「はい、これで失礼します。もう少し風景を撮影をしていると思いますので、何かあれば声をかけていただければ」
「はい」
「さようなら、ですわ」
俺と愛利奈がは座ったまま、その男性を見送った。
他の車両に移動するようだ。
正直なところ、もう少し例のつぶやきさいとアカウントの写真を見てもらいたかったのだけど……仕方ないか。
大変な収穫があったことだし、と、俺は自分を納得させる。
「あーとても楽しい時間でした。お兄さまと写真も撮れたし……そうだ、里桜さまにも送って差し上げましょう」
さっきの男性が見えなくなるとすぐに、愛利奈は俺の肩にもたれかかりスマホを弄り始めた。
とてもご機嫌な様子だ。
俺の腕に触れる、愛利奈の体温が温かく気持ちが良い。
うーん、こんなにべったりくっつくような妹キャラではないはずだけど。
先ほどの様子といい、ちょっとした日帰り旅行で気分が浮かれているのかもしれないな。
「えっ、里桜さんに送るのか?」
「そうですわ。いけませんか?」
「いや、いいんだけど俺変な顔をしてないか?」
「……お兄さまはお兄さまです」
里桜はよく分からないことを言って微笑むと、スマホに視線を移す。
おい、それ答えになってないぞ……。
ブーブブ。
俺のスマホが震えたので見ると、里桜さんからのメッセージが来ていた。
愛利奈から俺のことを聞いたのだろう。
『先輩、こんにちは
今日は愛利奈ちゃんと、お出かけなんですね』
『うん』
俺はそうだよ、というイラストのスタンプを送る。
『いいなぁ……あの、どこへ行くのですか❓』
君のお兄さんが亡くなった場所……などと言えるはずがない。
色んな意味で。
愛利奈場所を伝えてないから、里桜さんは俺に聞いてきたのだろう。
『うーん、特に目的地は考えてないんだけど、鳥取県の東部の方にぶらっと日帰りで行こうと思って』
鳥取の東部というと、だいたいは鳥取市のことを指す。
ウソではないものの、少し胸がチクリとした。
『いいなあ。そういう旅って楽しそう✌
恵里菜さんと先輩ってとても仲が良いんですね❗
私も退院したら一緒に行きたいです⁉』
一緒か……。
もし三人で出かけたら、愛利奈と里桜さんが話しているのを微笑ましく見つめる保護者、という感じになりそうだ。
朝の通学の時も、そういうことはある。
二人で遠出するほどの仲になるまでは、それもいいかもしれない。
『そうだね。きっと』
『絶対ですよ!
あの……私とメッセージしていて大丈夫ですか?
愛利奈さん退屈しているんじゃないですか?』
俺はふと、となりを見た。
愛利奈は俺にもたれかかって、寝ているようだ。
こんな妹の姿、いったいいつぶりに見たのだろう。
手から携帯が滑り落ちそうだったので、起こさないように取り、鞄にいれてあげる。
とても気持ちよさそうに眠っていた。
やけに愛利奈の体が温かい。
『愛利奈寝てるわ』
『それでメッセージ急に止まったのですね』
『うん、そうだね
こっちからメッセージ送りまくるのも邪魔じゃない?』
『いいえ
入院って退屈で
本でも持ってくれば良かった
それに、先輩に』
ここで里桜さんのメッセージが止まった。
今まではほぼノータイムでメッセージが返ってきていたのに。
返事をするのも、何か急かしているようでできなかった。
少し待ってみようと思う。
そして、しばらく待っていると、愛利奈の温かさに触れていて、次第にうつらうつらとしてくる。
気持ちいい。前は一緒に寝てたけど、愛利奈が中学に入学する頃からは全然だ。
ブーブブ。
メッセージアプリの着信のバイブだ。随分悩んだであろうそのメッセージを見る。
『先輩に会いたい』
『俺もだよ。手術終わったら、いつでも会える』
『手術は今日の午後あるそうです』
候補日ではあったみたいだけど、急に今日に決まったようだ。
ならばと、俺はボイスメッセージを送ることにした。
周囲を気にせず、少し大きめの声でスマホに録音する。
「絶対、手術は上手くいくから……一緒に頑張ろう!」
少し照れくさいけど、送ってみた。
すると、『嬉しい』というメッセージと共に、ボイスメッセージも送られてくる。
『ありがとう。この声があれば私も頑張れます! …………これはずかしいよぅ』
最後の声は送るつもりがなかったのかもしれない。
でも、その可愛らしさは俺の頬を緩ませるのに十分だった。
愛利奈さんとLINEしてるだけで楽しい。
しばらくメッセージのやり取りをしていたけど、いよいよ手術の時間が迫ってきたようだ。
「これから明日まで返事できなくなるかも」
「わかった。応援してる!」
俺は返事を送った後、愛利奈の温もりと電車の心地良い揺れにつられ、次第に意識が遠くなっていったのだった。
世界が暗闇包まれ、周囲の音が遠ざかっていく。
……茜色に染まる夢を見ていた——。




