おかわり、 後日談1
クロウとシロウが戻って来て二週間が経つ頃。
一人と三匹の生活にも慣れて、部屋の狭さも気にならなくなって来た頃。
兄弟は昼寝の真っ最中で、普段より少し静かな昼下がり。
うちのアパートの前に、一台のトラックが止まった。
「あれ、何ですか?」
狐目が窓の外を指差して問う。
見れば、CMでよく見かける運送会社の車だった。
数人で、家電や段ボール箱を運び込んでいる。
誰か入居したらしい。
「あれは引っ越しだよ」
「ヒッコシ?」
「家を住み替えるんだ」
狐目は少し考え込んだ。
「ふむ、巣の移動?縄張り争いで負けたですか?」
「そういうんじゃなくて」
俺は苦笑する。
「進学とか就職とか、用がある場所に住処を移すのはよくあること」
「ああ、餌場近くに出てきたですね、分かります。
私も巣は餌場の側に作ったです」
いまいち理解しているとは思えないが、まぁいいか。
と、気になる単語が耳に残った。
「巣があるのか?」
「“あっち”にはあったです。卵温めるのに使いました」
「卵はこっちに持って来てたんだろ?」
「行ったり来たりするです。
“こっち”の方が安全、“あっち”の方が餌多いです」
成る程、食事の時は向こうに行くわけか。
双方の環境を良いとこ取りしようとすると、そうなるのだろう。
「そんなに簡単に行ったり来たりできるんなら、勉強中にもちょくちょく戻って来れば良かったのに」
そうしたら、三匹が帰ってきたあの日にも、あんなに驚かずに済んだはずだ。
しかし、狐目は否定の形に首を振る。
「それは難しいでした、監視されてましたから」
監視?ここが?
何だそれ、心当たりがない。
「見張られてたの、知ってます。卵盗んだ奴らです。
見つかったら捕まる、私も子供達も危ないと思ったです。
現に私追いかけられたコトあります」
竜の後を追い回すとか、どんな勇者だ。
と思ったが、狐目の様子を見れば、どうやら嘘ではないらしい。




