八十七皿目、 終幕 3
「ちゃんとご挨拶なさい、久し振りなんですから」
俺が飛び起きるのと同時に、麦藁帽子を脱いで女が言う。
「ただいま、パパー」「ただいまー!」
ああ、もう、何ていうか、本当に。
あいつらだ。間違いない。
クロウとシロウ。
俺の育てた子竜達。
姿形は違えど、分からない筈などない。
狐目は別だが。
驚き過ぎて言葉もない俺に、二匹は不安げに首を傾げる。
「パパー、どしたの?」「お腹いたいいたい?」
痛いのはお前らのせいだ。
でもそんなことじゃない。
そんなのは些細なことだ。
「おかえり」
涙声を堪えて、辛うじて一言搾り出す。
『ただいまー!』
二匹は満足そうに、もう一度大きな声で帰宅の知らせを告げた。
部屋に入った二人は、早速俺の両脇に陣取った。
遊んでくれと五月蝿かったが、それよりもまず話すべきことがある。
卓袱台を挟んで座った狐目は、ポットと急須で茶を淹れて、勝手に飲んでいる。
自分の分だけかよ。
「どうしたんだ、急に戻ってくるなんて、何かあったのか?」
「いいえぇ、何事もなく無事にオ勉強は終わりましたですヨ」
今度はごそごそと戸棚を漁って、茶菓子を探す。
煎餅を見つけて、菓子鉢に開けやがる。
クロウとシロウが、煎餅を取ってばりばりと食べ始める。
うん、こいつらは食ってる方が大人しいから、これでいいや。
「終わったって、もう?ついこの間出て行ったばかりじゃないか」
「あっちとこっちでは時間の流れ違いまス」
「限度ってもんがあるわい!」
しれっと言い放った狐目は、ずずっと音を立てて茶を啜る。




