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八十一皿目、 ――『 』 10
「お出かけだぞ」
と俺は二匹に言った。
「お出かけー?」「おでかけ?」
「母ちゃんとお出かけだ」
ピイピイと声を上げて、二匹は喜んだ。
狐目の肩に這い登って、耳元で楽しげに囀っている。
何て喚いているのかは分からないが、さぞかしはしゃいでいるのだろう。
狐目がにこにこ笑って頷いているのが、その証拠だ。
二匹を抱いた狐目が立ち上がった時、俺は自然に、
「いってらっしゃい」
と言う事ができた。
「俺はお留守番だ」
「おるすば?」「るすばん?」
クロウとシロウが、顔を見合わせる。
それから、相応しい言葉を思い出したように、
誇らしげに、胸を張って、声を揃えてこう言った。
『いってきまーす!!』
「ああ、いってこい」
そのいってきますに、ただいまとお帰りは無いんだなどとは、言える筈も無かった。
ぐっと込み上げてくる感情を、俺は呑み込むだけで精一杯だったから。
玄関先で、一度狐目が振り向く。
軽く会釈する。
「じゃあな、達者で暮らせよ」
肩越しに顔を覗かせた二匹に、俺は小さく呟いた。
きっと、聞こえなかったろう。
だけど、まるでさよならを言うかのように、
ピィ!
と一声、二匹は鳴いた。




