六十三皿目、 ――そして再会 10
鹿島の姿がブロック塀の向こうに消えて暫く。
車のエンジンが掛かる音が聞こえて、静かに遠ざかっていく。
耳を澄ませてもその音を聞き取れなくなってから、
「っだぁぁぁ~~……!!」
俺はぐったりとその場に座り込んだ。
盛大な溜息と共に、張り詰めきっていた緊張感を吐き出す。
心臓がばくばくと高鳴っていた。
俺の肩から下りたクロウが、どうした?とばかりにこちらを見上げる。
シロウは、気にしたふうも無く、俺の腕の中で昼寝でもするかのように丸まっている。
全くいい気なもんだ。
このほんの十数分程度の間に、軽く一年分は驚いた気がする。
二階から飛び降りた経験なんて、一生の内で初めてだ。
ごっこ遊びじゃなく、本気で関節技を掛けられたのも。
じゃれつく時とは桁違いに恐ろしい竜の爪や牙の威力も。
鉄を焼くような炎の息吹と、間近で浴びた熱気の痛いような熱さも。
そして、二匹は人間にその力を振るうことを、何とも思ってないということにも。
俺は戦慄した。
ただ、クロウとシロウは俺のために戦ってくれたのだ。
だから、俺は二匹を責める気になんて、なれない。
「よしよし、部屋に帰るぞ。
こんなとこ誰かに見られたら大変だ」
クロウの耳の後ろをくすぐるように撫でてやる。
クロウは、甘えるように手のひらに額を擦りつけ、シロウの隣に割り込んでくる。
重いから下りろ、と言いかけて気付いた。
小さく、震えている。
クロウの鱗に覆われた硬い皮膚越しに、早鐘のような心臓の鼓動が伝わってきた。




