四十七皿目、 ――追跡行 2
つまりこれは、視覚に現れる歪みによって、あちら側のものを見分けるらしい。
鹿島は勇んで、陽炎目掛けて駆け出した。
地図、コンパス、双眼鏡越しの空を代わる代わる確認しながら、目標へ向かって逸る気持ちのままに走る。
タイミング良く青に変わった横断歩道を渡れば、通りの反対側は細い路地の並ぶ住宅街だ。
一戸建ての家々とこじんまりとしたアパートが、路地を挟んで軒を連ねる。
日中にも人目が多そうだという点は気になったが、ここまで来て躊躇する理由にはならなかった。
幾本も複雑に交差する道を、住宅地図と見比べながら行ったり来たり。
空に上る澱みを追いかける。
最初は遠く小さく見えた歪みも、やがて大きく、そしてその分近くに見える。
今や、見上げた空の大部分を覆う程だ。
それが立ち上る麓こそ、竜のいる場所だ。
少し開けた道路に出た。
車二台が余裕を持ってすれ違える程度の幅がある。
その道沿いに、澱みの奔流があった。
双眼鏡を通して見れば、周囲の地面や建物もとっくに澱みに巻き込まれている。
視界がもやもやして、まともに眺めてはいられない。
その中でも、一際歪んでいるのが件の源泉だ。
ついに鹿島は、竜の居所を突き止めた。
と、
「うっ!」
思わず呻いた。
極一般的なアパートだ。普通に見れば。
それが双眼鏡を通した途端、蜃気楼のようにひずんで形を失う。
酷い近眼用の眼鏡をかけさせられたかのように、見えているのに姿を認識できないのだ。
これが竜という生物なのだと思った。
この視界の歪みが、そのまま世界の歪みなのだ。
ただ居るだけで、これ程までも世界の法則を歪めている存在。
それが、竜。




