四十六皿目、 ――追跡行 1
目標とした、坂の下の交差点に着いた。
見覚えが有ると思ったら、少し行った先が先日狐目と鉢合わせた公園だ。
鹿島はコンパスを確認する。針の傾きは先刻より大きくなっている。
右に曲がって、駅の方面に向かう必要がある。
その途中で、道を横断することになるだろう。
どうやら目的の場所は、商店街に程近い住宅地のどこかにあるようだ。
また狐目と出くわさなければいいが、と鹿島は思った。
「おっと、そろそろあれも準備しておくかな」
リュックの中をまさぐった鹿島の手が、双眼鏡を取り出す。
勿論ただの双眼鏡ではない。
教授の部屋から拝借してきたこれも、コンパス同様“あちら側”の力を帯びた代物である。
この双眼鏡を通して見れば、あちら側のものが見分けられるのだそうだ。
具体的にどう判別するものかは鹿島も知らないが、実際に使ってみれば分かるだろう。
早速、双眼鏡を構えて覗き込んでみる。
倍率は然程高くない。
やや狭まった視界に、遠くのビル看板が映る。
何の変哲も無い町の景色だ。
ここから見える辺りには、まだそれらしきものは無いようだ。
(目標に近付けばもっと変化が現れるのか?)
思いながら、ぐるりと周囲を見回してみた時、それに気付いた。
空が滲んでいる。
陽炎のようにもやもやと、空気の歪みが遠くの空に立ち上っている。
双眼鏡を外す。
極普通の町並みと、青一色の空が見えるだけだ。
双眼鏡を掛ける。
並んだ屋根の向こうに、沸き立つような歪みが漂っている。
方角を確認すれば、コンパスの示す先と一致していた。
「こういうことか」
合点がいった。




