三十二皿目、 ――舞台袖或いは物語のB面 5
現地へ行ってみれば、そこは閑静な住宅街だった。
なだらかな丘の斜面に、整然と家々が並んでいる。
近くに学校や病院、ショッピングモールもあり、こんな理由で訪れたのでなければ住みやすそうないい町だという感想を持っただろう。
あまり長い間車で彷徨くのは憚られるな、と鹿島は思った。
こういった静かな住宅街では、見知らぬ車や人物は殊の外目立ってしまうものだ。
不審車両と通報されるのは御免被る。
誰かに見咎められれば、道に迷った振りでもしてやり過ごすつもりだった。
本当ならくまなく走り回ってそれらしい目星をつけておきたかったが。
致し方ない。
ぐるりと辺りを回って、大体の雰囲気を掴んだところで離れるとしよう。
一旦研究所に戻ろうかと考えた。
状況を整理したいし、できれば教授に相談もしておきたい。
地図を見れば、繁華街まで戻るより北へ抜けて峠を回った方が早そうだ。
ふと、『緑地公園』と記された区画が目に付いた。
もし竜が盗人の所から逃げ出したとして、ここに逃げ込む確率は高いように思えた。
竜にとっては、人が犇めく町中よりも木々の多い公園の方が居心地良いだろう。
ここも把握しておくべきか。
ハンドルを切って公園へ向かおうとした時、ふいにコンパスがゆらりと揺れた。
進行方向を向いて止まる。
「はて?この方向に竜が?」
地図を確認する。
確かに、地図に示した目印の交点へ近付く方向ではあるが。
公園を通り過ぎたらまた住宅街へ入ってしまう。
同じ車でそう何度も行き来するのは、人目につきやすくなる。
今日は深追いすべきでないと鹿島の勘が言っていた。




