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連恋輪廻応報草子  作者: あやぺん
継承ノ章
107/122

奇跡ノ歌姫2

 歌姫アリアは恋人ミズキ・ムーシクスの属する一族の総宗家へ招かれ、当主会議の後に自身の後ろ盾である猛虎将軍ドルガと再会。


 彼女に血族はおらず、後ろ盾は自身であるので、アリアが煌国で栄えても異国人による侵略は不可能。


 ドルガはそういう判断を下し、歌姫アリアに「煌国人の身分」を授与すると決定。


 この際にアリアは自分はドゥ国人だと正直に伝えたが、幼少時より彼女の言動を見聞きし、あらゆる報告を受けているドルガは、裏切り者の仲間ではないと宣言し、隠蔽の罪を不問とし、それに関する正式な書類も作成。


 一時的にアリアの養父となった者が煌国人であったこと、彼が彼女に身分証明書を残していたこと。それをかつてドルガが預かり保管していたこともそれを後押しした。




 ドルガは自身の名の下にアリアとミズキの婚約を成立させ、今後の生活は本人達の意志に一任すると決めたが、歌姫アリアの奇跡的生還と同じく経済効果が高いので、婚姻ノ儀は政府主導とすると命令。




 そのような事が次々と決まった数日後、歌姫アリアはミズキと共に再び南地区を訪れていた。


 正確には、二人が訪れたのは南西農村区。


 再度、慰問のために訪れる予定だが、飛行船事故現場にお忍びで来訪した理由は、仲間達の鎮魂と歌姫エリカのお見舞いの為。




 歌姫アリアと同様に、歌姫エリカも生存していた。


 エリカを救助したのは、飛行船に乗っていた彼女の幼馴染ライトである。


 彼は燃え盛る炎の中からエリカを探しだし、彼女と2人と共に飛行船内にある飛行機で脱出に成功。


 ただ、その飛行機も飛行船の爆発により飛来した部品で傷つき燃えながら墜落。


 ライトはなんとか胴体着陸を果たし、救助した三名と共に避難した。


 その際に飛行機が爆発し、歌姫アリアは同僚かつ友人を庇って大怪我。




 元々、エリカは飛行船の翼と共に空へ投げ飛ばされるところだった。


 ライトは間一髪で彼女を救ったのだが、エリカはその前までに煙をかなり吸っていて、その意識は飛行機に乗っても朦朧もうろうとしていた。


 ライトの腕に抱かれていた歌姫エリカは最後の力を振り絞ったというように、隣を走る同僚かつ友人に抱きつくようにして動き、彼女を庇った。


 結果、歌姫アリアはずっと眠っている。


 


 エリカは時折り目を覚ますのだが、ずっと虚な瞳で無表情。


 自ら体を動かすことはなく、自ら座位を保持すら難しい。


 現代医学では、それが怪我のせいなのか、それとも精神的なものなのか不明。


 どちらかというと精神的なものだろうという推測はされている。


 なにせエリカはそこから去ることは全力で拒否し、その時だけは感情を顕にする。


 高水準の病院へ移送しようにも、歌姫エリカはなぜかそこから離れたがらない。


 美しかった顔にも、その体にも、怪我と火傷跡が沢山残っていて、歌姫エリカはまるで人形や幽霊のように病室にいる。




 ☆★




 私はエリカの変わり果てた様子に涙して、しばらく二人きりにしてもらった。


 その手を強く握りしめて、思い出すのが遅くなってごめんなさいと謝る。


 歌姫エリカは死んだと報道されていて、当然ミズキも知らなかった。


 けれどもドルガ様との再会時に教えてもらい、こうして慌てて会いに来た。




「エリカ、私のことは分かる? 分かるけど辛くて現実逃避? エリカ」




 一言も話さない、まるで生きた死体というエリカが、私の顔を見つめて、少しずつ、少しずつ瞳の輝きを取り戻していく。




「……ぇ様」




「そうよ。あなたのお姉様よ。エリカ、大丈夫。私達はほとんどを失ってしまったけど、失っていないものもあるのよ」




 エリカは小さく頷いてくれたけど、とめどなく涙を流した。


 それから怠くて眠い、とにかく怠い、助けて……と小さな掠れ声を出した。


 それで後ろに倒れるように意識消失。


 慌てて医者を呼び、診てもらったけどいつも通りらしい。


 怠くて眠いと言ったと伝えたら、友人との再会という刺激で心が開き始めたのだろう、良い兆候だと喜ばれたが、私としては嫌な予感。




 そこへ、驚いたことにアズサが現れた。


 付き添い人はミズキで、病室内で二人だけで話したいという。


 迷ったけれど、ミズキが言うなら、アズサはとても親切で気遣い屋なので悪意は無いと考えて了承。




 アズサはこういう話しをした。


 また副神様が現れて、リマクスの薬を手に入れた。


 早く歌姫へという夢を見て、その話をオケアヌス神社の奉巫女達にしたら、きっとアリアに必要なものだろうということで慌てて持ってきたという。




 リマクスの薬とは、この国で信仰されている龍神王という神の鱗の一つ、リマクスにか作れない、どんな怪我をも治す奇跡の薬のこと。


 ただ、代償は激痛だそうだ。




「ということになっていますが、レイスさんと二人で相談して決めて、奉巫女様達に相談してきました」




 リマクスはなぜか一時的にレイスの家、庭にいたそうで、どうやら紫蘇を気に入っていたらしい。


 偶然その紫蘇を使って作られた飲み物が私の喉を完治させたという。


 これは自分とレイスだけが共有した秘密で、発見した残りの薬をどうしたものかと悩んでいたそうだ。




「ミズキさんが私には教えますと、歌姫エリカさんのことを話してくれました。言いふらさないと信じられる、アリアさんの心の支えになって欲しいと」




 レイスと共に沢山学んでいて、神々からの贈り物はなるべく賜った本人に関係することに使うべき。


 そうでないと、神々は横取りしたと誤解するから。


 だからレイスが見つけた、ルーベル家のものらしい薬は彼らは関係者に使うべき。


 


「レイスさんも一緒に来ています。私達はこちらのリマクスの薬疑惑を歌姫エリカさんに使いたいです」




 自分達の親友の親友は未来の親友だ。


 歌姫エリカが元気になったら、また大勢の人を楽しませてくれるし、友人を助けようとして大怪我をした人間に奇跡がある世界には信仰心が育つ。


 信仰心や感謝の心は龍神王様達が寄り添ってくれる理由になり、また誰かがひょんなことで救われる。


 自分のように、アリアのように。


 誤解で他人が天罰を受けたら困るので、薬はエリカにほとんど使い、少しお裾分けでこの病院の井戸に混ぜてしまうという。


 奉巫女達のも相談して、これは間違った考えではなく、そしてきっと神々も気にいるだろうと言ってもらい、こうして私とエリカに会いに来たそうだ。


 


「アリアさんがご存知のようにかなり痛いので、本当ならエリカさんの許可を得たいです。でも、お話し出来ないんですよね?」




「さっき、少しだけ喋ったから伝えてみるわ」




 しかし、エリカは眠ったまま。


 私がアズサに怠くて眠いと喋ったと伝えたら、彼女が「私と同じあざです」とエリカの髪を示した。


 正確にはその頭皮を。




「……白い彼岸花が必要です」




「それならここにあるわ」




 事故前にミズキに贈って、記憶が戻った時に返却された首飾りの中に、この国にはない、ミズキが白い彼岸花と呼んだもので作られた薬が入っている。


 ミズキはその薬をアズサへ贈り、彼女は他にも必要な人がいるかもしれないと少しずつ使用。


 アズサは自身から痣がなくなったのでと、薬を余らせてミズキに返した。


 怖いからとりあえず全て使うとは言わず、きっと大丈夫、違くてもおそらく今よりも長生きになったから、他の人の寿命も伸ばすべきだと。


 


「オケアヌス神社だと育つようなので増やし中です。我が家の庭では枯れてしまいました」




「……えっ? アズサはあの花の種を見つけたってこと?」




「蜂のような副神様が私のところに遊びに来て、白い彼岸花をいくつか置いていきました。この国では未知の病のようで、これからきっと必要になるので増やせないかなぁと」




 花を埋めても無駄かもしれないし、根付くかもしれないととりあえず埋めたら、神聖な土地であるオケアヌス神社では育ち始めたそうだ。




「さすが神様に見つけてもらって愛される乙女。ナナミといい、神様が遊びに来て置いていくって凄いわね」




「今日はサザエと鯛が落ちてきました。本当に驚きです」




 リマクスの薬はきっとレイスに贈られたもので、一応、彼もあの紫蘇甘水を飲んだけど何もなかったので、彼には必要の無いものということになる。


 それなら、彼の大事な人の為に使うべき。


 そしてそれはきっとレイスの手からが良い。


 それが神々について勉強したアズサとレイスの結論。


 そういう訳で、私の許可を取ったアズサはレイスを病室に呼んでくれた。


 病室を訪れたレイスはこんな話をした。




「叔母上が神様の奇跡は情緒的な程良い、後世に語り継がれて、誰かが己の身を正したり、人に優しくするようにと」




 だから自分とアズサはお見舞いをしたということで一旦帰る。


 そうして夜に、そこの窓からこっそり現れて、自分はリマクスだと言って歌姫エリカに薬を与える。


 そんな事を自分が出来る訳がないので、それをするのは演技派のミズキで、自分は黙って隣にいる。


 二鱗のリマクスが現れたということにして、ミズキが演じて喋り、レイスが薬をエリカの全身にかける。


 目撃者がいると良いので、私以外の誰かにもいてもらいたいそうだ。


 私は条件反射のようにライトを選択。




 リマクスの薬なんて言われても以前の私なら信じない。金儲けか何かだと疑う。


 善良に見えるレイスとアズサが言うなんて、誰かに騙されている。


 二人はお金をむしり取られていないか、詐欺に加担させられているのではと心配する。


 しかし、私は自らの身を持って知っている。


 なにせ私は一刻程の激痛と引き換えに、もうこれ以上は治らいと諦めていた、醜い声を出す喉が良くなるという経験をしたのだから。




 こうして、真夜中前に私達の自作自演、歌姫エリカの復活劇(仮)を行うと決定。


 私達は目を覚さないエリカを残して病室を出て、そのまま病院を後にして、宿にいるミズキと合流。


 ミズキは、




「脚本はシンさんです。副神信仰の短編を自分なりにいくつも作って欲しい。有名副神九鱗について、それぞれ三種類の話と頼みました。彼は才能の塊で、筆が早いし内容も素晴らしいです」




 と悪戯っぽく笑って、シンの脚本を自ら演じて披露。


 なお、ど素人レイスは、隣に立って薬をかけるだけなのに、あまりにも大根役者の動きで美しくない、これでは神話にならないと言うミズキに鬼稽古をさせられた。


 協力者にはウィオラとネビーもいて、用事が終わった彼らと合流したら、ミズキと共にウィオラも鬼稽古を開始。


 そこから二人はせっかくなら舞台装置がいる気がすると言い出して、あーだこーだと相談を開始。


 この二人は見た目もだけど中身も似ている気がした。




 ☆★




 月がほとんど姿を現せない、雲ばかりの空という夜のこと。


 歌姫アリアは友人ライトと共に、歌姫エリカの病室を訪れた。


 歌姫アリアは、もしかしたら傷ついている親友の心を慰められるかもしれないと歌うことに。


 それはこれまで、彼女が数々の病院を慰問して行ってきた行為と同じではあるが、選曲はこれまでと異なり、親友との思い出のもの。




 すると、




「あまりにも美しく、切ない歌に惹かれて参ってみれば乙女よ、なぜそのように泣いている」




 突然開いた窓と、そこに姿を現した女性の旅装束で顔の見えない者達に対して、歌姫アリアは不審者だと怯え、ライトは素早く立ち上がった。


 せっかくなら大演出だと、ミズキ達に協力するルーベル副隊長はひょいっとミズキとレイスを、自分の姿は見えないように窓の内側へ。


 その移動姿は、ライトの瞳には人とは思えない動きのように映った。




 ルーベル副隊長はついでに、この場では妻しか知らない友、この国で自分達は神だと思って過ごしている蛇のような生物に頼んでライトを急襲。


 さらに彼は、病室内の灯りの大半も友に奪わせた。


 そこへすかさずウィオラがミズキの背後に灯りを与える。


 演技に入り込んでいるミズキは奇妙な状況に何も感じなかったが、大緊張したいるレイスは何かがおかしいと生唾を飲んだ。




 何かにいきなり噛まれて、めまいがするライトは、遠くなっていく耳でこんな台詞を聞いた。




「神の御前で喋れる人は少ない。返事をしない無礼は許そう。この様子だと友が死にかけていて悲しかったのか」




 アリアは驚きで固まっている振りをした。




「汝、その歌を我らに三度奉納せよ。これはその前払いだ」




 めまいと吐き気で動けないライトの視界の先で、愛する幼馴染にばしゃりと大量の水が掛かった。


 途端に歌姫エリカの苦悶の絶叫が病室に響き渡る。




「……エ、エリカ! あなた達! 一体何をかけたの⁈」




 ようやく喋れたというように、アリアは台本通り大絶叫しながらエリカにすがりついた。




「治してやると言ったのに聞いていなかったのか? 我を疑うとは不届きな。至極の歌に免じて許してやるが次は無い」




 アリアがエリカの名前を叫びながら彼女の様子を気遣う中、ライトは不審者を追おうとして、無理だと判断し、病室外の従者に命令しようとしたが、いきなり足を引っ張られて転んだ。


 しかし、そこには人なんていないし、自分を引っ張るような生物もいない。


 彼の背筋に冷たいものが伝うと、そこをもぞもぞと何か・・が這った。


 あまりにも暗い室内で、それがなんだったのか、彼には理解出来ず。


 ライトが茫然としている間に、仕掛け人のミズキ達は赤鹿で逃亡。


 ルーベル隊長が妻を前に乗せて、弟分と甥っ子を腕に抱えてとにかく遠くへと一目散。




 病室には次々と灯りが運ばれ、医者や介護師、薬師が集まり、彼らは歌姫アリアやライト、それに彼の従者達とともに衝撃を受けた。


 激痛でのたうち回っているが、歌姫エリカの目に見える範囲の傷跡が、火傷による瘢痕が減っていく。


 驚愕した歌姫アリアは男性を追い出して、親友の服をまくって確認し、気のせいではない、なぜか大火傷の跡が減っていると叫んだ。




 歌姫エリカは痛みのせいなのか気絶。


 彼女は熱を出し、うなされ、時に痙攣。


 歌姫アリアはこのどさくさに紛れて、飲ませる必要もあるかもしれないと、かけない分のリマクスの薬と白い彼岸花の薬を混ぜたものをエリカに飲ませた。




 やがてエリカは痛がらなくなり、安らかな寝息を立てるように。


 夜明けとともに目を覚ました歌姫エリカは、その姿は飛行船事故の前まで戻っており、体が軽いと可憐に笑い、おまけに立った。


 彼女が事故後に立つのはこれが初。


 歌姫エリカは語った。ずっと夢を見ていて、小さな蛇達に守られて幸せだった。


 たまに恐ろしい巨大な黒い影にさらわれそうになって恐ろしかったと。




「お姉様、ライト様、こんなに体が軽くなるなんて奇跡です」




 歌姫エリカは喜びで舞い踊り、どういう訳かその病室に七色に輝く雪のようなものが吹き込んだ。


 柔らかな風が歌姫エリカの頬を撫でる。




 歌姫エリカの回復から数日後、エリカが「お姉様のイズキ」話をした結果、歌姫アリアは最も大切な記憶を蘇らせた。


 その場に居合わせたライトが、イズキらしき者達に手紙を送ったら本物が見つかり、それはあのミズキだったとエリカに教えた。


 ライトはアリアは既に知っていると思っていたのだが、そんなことはなく。


 頭の中で何かが弾けた瞬間、アリアはエリカの病室を飛び出して、全速力で婚約者ミズキのいる宿へ。




「ミズキ!!! 私のイジュキが見つかったわ!」




「そのようにいきなり障子を開かないで下さい」




 着替えていたんですがと、ミズキは呆れ顔を浮かべ、私のイジュキは俺のことなのに、見つかったとは偽物だろうと小さなため息を吐いた。


 婚約早々に勘違いで婚約破棄か? それはあまりにも薄情だと。




「あなた、ライトに教わったんでしょう! 私、ずっとずっとあなたに会いたくて歌姫にまでなったのよ!」




 その発言にミズキは小さな苛立ちを消して、両腕を大きく広げて無言で微笑んだ。


 歌姫アリアは愛する男性に向かって飛びかかり、きつく、きつく抱きついた。


 煌国で恋をして、彼に会いたくて努力して、再会してまた恋をして、ようやく出会えてさらに恋をし、記憶を失っても彼に恋をした。


 これから先も何があってもミズキだけだと泣きながら、彼に抱きしめられた。




 ☆★




 廻る廻るくるくる廻る。


 巡り巡る。


 土に還り木になって家になろう。


 実になって食べられよう。


 芽吹いて大地を育み風に乗って種を蒔く。季節が巡っても無くならない。




『命や生活はどこまでも繋がっていて始まりも終わりも存在しないのよ』




 彼は姉のような親戚の話を、




「ふーん。よく分からないけどそうなのか」




 そう思いながら聞いて、もっとこの物語や曲のことを教えてとねだった。




 彼はまだ知らない。


 自分の演奏が歌姫を作ることも、彼女が親友を病気から救ってくれることも、彼女を喪失した痛手でとある店で暴れて神職を作り出すことも、次はこういう題材だと何度も言って稀代の小説家を作るきっかけになることも、主役として演じた火消しが「本物のようだというか本物火消しだ」と大人気になることも、そこに至るまでには様々な命や生活がなければならないということも、何も知らない。




 しかし、数年後には知る。




 そうして本当の意味で一族に伝わる創作話を受け継いで次へと繋げた。


 彼は遠方で暮らす親友の小説家が神話関係の話を発表するたびに、舞台脚本にしろと要求して、自ら曲を作り、妻には歌をつけてもらった。




 その血は様々な血と混じり、やがて——……




「賠償を要求される場には身一つでよろしいかと」




 つんとすました、氷姫と陰口を囁かれるような高貴な女性へと受け継がれていく。




「行きの飛行船内での衣服、交渉に際して必要な印などだけ用意致しました。それなりの容姿ですし、器量も磨いてきたと自負しております。利用出来そうでしたらお使いくださいませ」




 その凛然とした大きな瞳は、その長いまつ毛は、歌姫アリアと瓜二つなのだが、千年も経過した今、そのことを知る者はいないし、奇跡ノ歌姫という曲や演目を愛する彼女もまた、その物語の題材になった祖先の血が自分にも流れていることを知らない。




 千年後は戦乱の世である。


 それもかつて煌国があった大陸中央だけの問題ではなく、大陸全土を巻き込んだ大戦乱。




 氷姫はそこで平和を作ろうとする者として活動し、やがてその名は歴史に華々しく刻まれる。


 そんな自身の体の内側に、幼少期から愛してきた「戯曲 奇跡ノ歌姫」の血も流れていることなんて知らない。


 死ぬまで、死後も知ることはない。


 廃れかけていたその戯曲は、氷姫のお気に入りとして灰被りから蘇ることになるが、それはまた別の物語——……。

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