21 世界一、幸せに
短くまとまりましたが、これにて完結です。お付き合いありがとうございました。
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自分には似合わないからと拒否する彼女を口説き落とし、ヒドゥンは見事、ルナに純白のウエディングドレスを着せることができていた。
「……ったくよぉ、オレに純白なんて、冗談がキツすぎんだろ~」
「そんなことはない。天使や女神ってのは、白が似合うものだろ? 俺にとっての女神はお前だ、ルナ」
だから似合わないはずがない――と。
真顔で告げるヒドゥンを前に、ルナは真っ赤になった顔が戻らなかった。
「……ヒドゥンさぁ、なんか性格変わってねーか?」
「いやなら、控えるようにするが……」
「い、いやじゃねーけど……なんか、こう……ムラムラする」
「それを言うならムズムズだろ……」
ムラムラでも一向にかまわないが――と。
ヒドゥンは彼女の額に口づけ、髪を撫でる。
「きれいだ、世界で一番……つまり俺は、世界で一番の幸せ者だ」
「やっぱ変わりすぎだあぁぁぁ――っっ!」
調子を狂わされっぱなしのルナは、恥ずかしいやらうれしいやらで、このところまともに仕事ができていない。
その分をヒドゥンが完璧に補うこともあり、彼女の新婚ボケは、まだまだ終わりそうになかった。
「そういえば、ルナ……前から一度、聞いてみたかったんだが」
「なんだよぉ……オレの美貌の秘密かよぉ……」
もうヤケだとばかりに彼女は返すが、いまのヒドゥンに冗談は通じない。
「それも聞きたいな……もちろん、なにもしなくともきれいだとは思うが」
「冗談だよっ! それより、聞きたいことってなんだよ!」
一度、本気で怒ってやらなければと思っているのに、ヒドゥンの言葉がうれしすぎて、このところの彼女は真っ赤な笑顔しか見せていなかった。
「……正直に言って、俺は自分のどこがルナに好かれたのかわからない。なにか理由があったなら、それを知っておきたいと思ってな」
「あ――あー、なるほど……へー、ほーん……ひひっ、なんだよぉ~、そんなことかよぉ~♪」
ようやく反撃の機会がめぐってきたとばかりに、彼女の笑みが意地悪く歪む。
「ま、詳しくは教えねーけど……一番の理由は、ヒドゥンが不幸そうに見えたからだな。正確に言やぁ、自分の幸せを度外視してるように見えたから、だ」
彼女がそれを実感したのは、その仕事ぶりに感心してヒドゥンと対面し、その目を見たときだという。
「自分はなんでもする、だからお前らは幸せでいろ――みたいな? ま、昔のオレは結構ないい子ちゃんだったからな、似たような時期があったんだよ」
「いまもいい子だ、俺が保証する」
「いまそういうのいらねーから!」
話の腰を折ったつもりはないが、ルナは折られたように感じたらしい。
ヒドゥンにとっては、とても心外だった。
「んでまぁ、そういう生き方ってのが不毛だって、オレも理解してたからな……そんとき決めたんだよ」
ルナは、魅力的な赤い瞳をさらに輝かせ、顔を寄せる。
「こいつだけは、ぜってーオレの手で……世界一の幸せ者にしてやる、ってな♪」
そう笑った彼女の唇は、本日数回目の記録更新を果たし――。
ヒドゥンを再び、世界一の幸せ者へと押し上げるのだった。




