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12 和平調印

勢いで読んでいただきたいと思い直し、最後まで上げることにしました。21話まで、お付き合いください。


     ◇


 和平の調印式は、女王国の王都で行われることとなった。

 魔王を含めた魔族側の来賓は、誰もが紳士的に、そして理知的に振る舞い、人間たちへの友情を感じさせている。

 事前の告知、女王直々の言葉、さらには厳重な警備も敷いたことで、王城へ向かう魔王たちに対し、悪意ある行動を見せる者はいなかった。

 悪感情や剣呑な視線は、別にしても。


「私の周知がいたらず、不快な思いをさせてしまい、心苦しく思っております」

「なに、わかっていたことよ。その上でここまで足を運んだのは、我々も未来のことを思い、それが有意義だと判断したまでのこと」

 女王からの詫びを受け入れ、魔王は約束していた土産をテーブルに並べた。

「こちらは、その誠意の表れと受け取っていただこう。ご確認めされよ」

 魔王国にて研究された魔物の生態と、それぞれの魔物への対応策、被害を軽減する方策などが、いくつもの本にまとめられている。


「……まことに、痛み入ります」

「かまわぬよ。ただし、その知識をもたらしたのは誰かということ――そして、その知識そのものを。必ず、領土のすべてに言い伝えていただきたい」

 そう口にした魔王から溢れだすプレッシャーに、女王は肝が冷える思いだった。

「もちろんです。魔族が魔物を使役しているなどという、誤った認識を広めてしまったことは、私たちと、先祖代々の過失……誓って、払拭いたしましょう」

「うむ、期待しておこう」

 その言葉に魔王は満足げにうなずき、来賓の重鎮らも納得を示す。

 ただ、女王を除く人間側の同席者――大臣や一部の貴族においては、どこか不服のある態度を見せていた。


 魔王はそれに触れず、女王もそれをたしなめることはしなかったが、すでに二人の間では、その点について情報を共有している。

 反女王派という、女王の抱える腫瘍のひとつ――それが彼らの内情だ。

 場合によっては魔王国に利用されるかもしれないそれらを、あえて晒すことで、女王は信用を勝ち取ろうとしていた。


「期待しておるよ、女王陛下。我が国にもいえることだが、大勢が集まると、どうしてもそこには濁りが生まれる……どちらの国にあったとしても、それは我ら両国の敵にほかならぬ」

「ええ……重々承知しております、魔王陛下。私たちは手を取り合い、共通の敵を排除することを誓わねばなりません。この和平は、その一歩になりましょう」

 善なる民を救うため、その害となるものは除かねばならない。

 中央が権力を有するのは、そうした必要悪となることも目的としている。


 反女王派がそうと気づくこともなく、二人の密約は成立していた。

 その中で読み上げられる条約を互いが認識し、署名と王印を押すことで、ついに和平が成立する。


 両国の悪感情が、すぐに改善することもなかろうと、知識の交換以外では、不干渉が基礎となるものではあるが――。

 近い将来の交流と、可能な範囲での協力を誓われたこの条約は、千年と続く太平の基盤となり、後の世に語り継がれ、讃えられるのだった。


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