記憶
「コンニチワー!!」
ツバメ亭のドアベルを威勢よく響かせて、コリーンが入店してきた。
ミルチアはテーブル席に置いてある一輪挿しの花を交換しながらコリーンへと視線を向ける。
「どうしたのそんなに慌てて」
コリーンは肩で息をしながら答えた。
「だってもう……ハァハァ続きが気になってぇ……!」
「そんなに?」
あっけらかんとして言うミルチアに対し、コリーンは目をかっ開き大きな声を発する。
「当然じゃないですかっ!フィンくんのお父さんがあの高名な英雄だったなんてっ……しかも、この街に来たんでしょうっ?何のためにっ?ひょっとしてミルチアさんに会うために!?って気になって気になって夜も眠れませんでしたよ……!」
「まぁまぁ大変。じゃあ今日はとことん語らせていただきましょうか」
「嬉しい!あ、でもフィンくんのお迎えは大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。今日はあの人が直帰でお迎えに行ってくれることになってるから」
「そうなんですね。……ん?あの人って?」
「コリーンちゃん、今日のランチはウチの賄い料理でいいんだったよな?」
ツバメ亭の店主が厨房から顔を覗かせてコリーンに確認してきた。
彼女は目を輝かせて頷く。
「ハイ!ミルチアさんに聞いて食べたくなってしまって♡もちろんお代はお支払いします♡」
「あはは、賄いなんて余った食材でちゃっちゃと作るんだから金なんて要らないよ」
「え、そんなんわけにはいきませんっ。じゃないとこれから注文し辛くなっちゃう」
真剣な表情で店主に言うコリーンに、ミルチアが提案した。
「それなら、半額だけ支払ったらいいんじゃない?それなら双方納得できると思うのだけれど」
「「なるほど」」
コリーンと店主の声が同時に重なった。
そうして、本日の賄い“若い娘に食べさせるからいつもより張りきって作った残り野菜のキッシュ”と“女帝に捧げるアラビアータ”を皆で一緒に食べたのだった。
食後はいつものように二人だけになった店内で、いつものようにミルチアのキャロットケーキがテーブルに置かれる。
今日は胡桃がたっぷりと入り、すりおろした人参とリンゴの二つの甘みが楽しめるキャロットケーキだ。
それら全てをペロリと平らげたコリーンが鞄から手帳を取り出し、ミルチアに言う。
「ではミルチア先生、お願いします!」
「いやだわ先生だなんて。ただ経験したことを語っているだけなのに」
「いえもう聞いているこちらは大スペクトルラブロマンス小説の朗読を聞いている気分ですよ!」
仰々しくそう告げるコリーンに苦笑しながらミルチアは紅茶を口に含み、喉を潤した。
そして店内に置いてある林檎を見つめ、思いを巡らせる。
「クライブとの再会は、本当に突然だったの……」
そう言ったミルチアの脳裏に、坂道を転がり落ちていく真っ赤な林檎が蘇る。
「その日、ディナーのメニューである肉料理のソースに林檎を使いたいからと、買い物を頼まれたの。ランチの繁忙時が過ぎ、賄いを食べた腹ごなしも兼ねて、私は市場へと足を運んだわ」
『ミルチア……』
あのとき、耳に届いた忘れたくても忘れられない声の記憶が、ミルチアの頭の中で響く。
林檎を買い込んだツバメ亭までの帰り道。
突然名を呼ばれ、振り返った先に立つ人物を見て手にしていた林檎を落としてしまった。
坂の下手にいたクライブが転がり落ちてくる林檎たちを慌てて拾いあつめている。
そんな記憶がありありと蘇り、ミルチアは静かに目を閉じた。
毎回短くて申し訳ないです(•́ε•̀;ก)汗
じゃ!ちょっと林檎回収してくるから
(・ω・)ノ
※転がった林檎はその後スタッフが美味しくいたたきました




