私は本気の恋だった
クライブと一夜を過ごしたその三日後、前線に派兵される騎士たちが発つという知らせが王都中を走った。
善戦と勝利を願う者、出征する騎士や雇われ兵士の家族や恋人または婚約者を見送る者、そして騎士団の関係者たちが死地へ向かう彼らを道路脇から送り出すという。
私もひと目でいいからクライブの姿を見届けようと、人々が集う王都の中央通りへと訪れた。
辺り一帯すごい人の数で、見送りしやすい位置である通り側へ移動するのは諦めざるを得なかった。
(クライブ……姿を見つけることができるかしら……)
せめてひと目、ひと目だけでもその有志を目に焼き付けられたなら。
クライブが国の密命を受けて探していた祖父の術式は、彼に教えられた私書箱に送る手配済み。
離れている間も連絡が取れるようにクライブが密かに用意してくれていたらしい。
それを別れた日の朝に知らされ、それならそこに送っておこうと決めた。
私から彼へ、最初で最後の私信。
そこに愛の言葉や感謝の言葉は何一つ書かず、ただクライブにこの術式を託すとだけ綴った。
あの術式を手に入れことで、クライブの今後が明るいものになればいいと思うし、私は長年抱え続けた柵から解放される。
きっと祖父も祖母も、
『お前の好きなようにしていいよ』
と言ってくれると思うから。
出征する騎士や兵士たちが規律正しく進んでいく。
下級騎士は歩兵と同じく徒歩で移動するのだと、見送りだか見物だかの人が言っていたのを耳に挟む。
私はたった一人の愛しい人の姿を探して、目の前を歩き去っていく騎士たちを目で追い、視線を巡らせた。
(おかしいわ……。今日出立する連隊だと言っていたのに、姿がどこにも見えない……)
何かあったのだろうかと不安が胸を過ぎったそのとき、
「連隊長クラスの騎士たちだ」
という誰かの声が聞こえた。
徒歩の下級騎士や兵たちと違い、立派な鎧に身を包み、騎乗を許された上位の騎士たち。
見送りの観衆が一際声援を上げ敬意を払う、大なり小なりの隊を率いる名のある騎士。
その中に、クライブの姿があった。
(えっ……?)
ちっぽけな私が人々に埋もれながら視線を送るその先に、鎧を纏い馬上の人であるクライブがいたのだ。
(どういうこと……?彼はただの下級騎士、諜報を担う一兵卒ではないの……?)
兜は被らず、チェーンメイルで頭部を覆われているので髪色まではわからないれど、その瞳は間違いなく黒と青のヘテロクロミア。
吃驚し、ただ目を見開いてその姿を見つめる私の耳に、見知らぬ人間たちの声が届く。
「あの片目ずつ違う色の御仁が、宰相閣下の末の息子なんだってな」
「オーウェン侯爵閣下の?」
「ああ。だけど奴さんは庶子で、本妻やその子どもたちに疎まれて生きてきたらしいよ」
「だから宰相の息子でありながら、全線送りの連隊の副隊長なのか」
「貴族の社会は大変だな」
その囁かれる会話を耳にしながら私は、馬に乗って去っていく遥か遠くの彼をぼんやりと見送った。
……どういうとこ?
彼の名前はクライブ・ケインではないの……?
オーウェン侯爵の庶子……?
貴族の血を引く……。
(あぁ……私は……)
本当にバカだなぁ。
誠の彼を何も知らずに……誠の名前すら知らずに、それで彼に恋したなんて。
我ながら情けなくて、笑ってしまう。
本当に、全てが偽りだったんだ。
立場も名前も、もしかしたら重なったと思った気持ちさえも。
(だけど……もういい)
どうせ最初から先は望まない関係だったのだもの。偽りの関係だとわかっていたのだもの。
だから……祖父が隠した術式を渡して、それで終わり。
それで何も無かったことになる。
「本当に好きだったんだけどな……」
気がつけばぽつりとつぶやいていた。
あなたにとっては、離れてしまえばそこに存在すらしていなかった事になるような偽りの関係だったのだろうけど、
私は……私は本気の恋だった。
だけどそれももうお終い。
全てを置いて、再び違う土地でやり直そう。
二度目にもなると手馴れたものだ。
私はそう決意し、祖母と身を寄せあって暮らしたアパートを引き払い、王都を離れた。
なんと、今作はヒーローsideは最終話の後だと作者が決めているそうな……
( ;`ω´) (`ω´;(`ω´; )ナ、ナンダッテー!




