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養蜂家と蜜薬師の花嫁  作者: 江本マシメサ


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養蜂家の青年は、台所に立つ

 帰宅後――なぜかマクシミリニャンとお揃いのフリフリエプロンをまとい、一緒に台所に立っている。


 アニャのマッシュルームスープを楽しみにしていたものの、ツヴェート様と山歩きに出かけていた。

 こうなったら我らで作るしかない。

 そんなわけで、こうしてマクシミリニャンと共に料理を開始しようとしていた。


「では、最初に澄ましスープを作ろう」


 まず、マッシュルームスープの土台となる澄ましスープ作りから取りかかるようだ。

 水を注いだ寸胴鍋に鶏ガラと塩を入れてしばし煮込む。

 その間に、タマネギやセロリなどの数種類の皮を剥いてカットしておく。

 鶏ガラを煮込んだ湯が白濁してきたら鶏ガラを取り出し、野菜と香辛料を入れてしばし煮込んでいくようだ。

 寸胴鍋の前で、マクシミリニャンは腕組みしていた。どうやら、一時さえも鍋から視線を外さないつもりらしい。


「えーっと、俺は動物たちの世話をしてくるね」

「ああ、頼む」


 フリフリエプロンを脱ぎ捨て、庭に走った。

 山羊に新しい水を与え、糞尿を含んだ藁を回収。新しい藁を敷き詰めた。それから、一頭一頭健康状態を確認する。

 毛並みや目の色を確認し、病気に罹っていないか見るのだ。

 ひづめが伸びていたら、ハサミでカットしてあげる。

 伸びた状態で放置すると、巻き爪になったり、歩き方がおかしくなったりするようだ。

 最初は恐る恐るだった蹄切りも、今は慣れたものである。

 べ~と鳴くばかりで、抵抗しない。

 暴れん坊の山羊の場合は、四人がかりで取り押さえて蹄を切るという話を聞いた。

  幸い、ここの山羊たちは大人しい。いきなり突進してくる個体はいないので非常に助かっている。


 その後、畑の雑草抜きをしたり、野菜を収穫したり、薪を割ったりとバタバタしているうちにけっこうな時間が経っていたようだ。慌てて家に戻る。

 台所を覗き込むと、マクシミリニャンは澄ましスープの次なる段階へと進んでいた。

 野菜を取り除いた澄ましスープに、マッシュルームとタマネギを刻んでバターで炒めたものを入れる。

 これに、山羊のミルクを注いで、塩、胡椒で味を調える。それからさらに煮込んでいく。煮詰まってとろみがでてきたらマッシュルームスープの完成である。


「否、完成ではない!」

「ど、どういうこと!?」

「スープは、このパンに注いでから完成となるのだ!」


 マクシミリニャンが取り出したのは、拳大の丸いパン。

 パンの上部を切り、中をくり抜いたもの。


「中はバターを塗って、カリカリに焼いておいた」

「もしかして、これにスープを注いで食べるの?」

「そうだ」


 ちなみにくり抜いたパンはパン粉にして、鶏肉のパン粉焼きを作ったようだ。

 香ばしく、おいしそうに焼き上がっていた。


「では、マッシュルームスープの仕上げをしよう」


 あつあつのマッシュルームスープを、パンの器に注いでいく。最後に、パンの蓋を閉じたら今度こそ完成である。


「これぞ、秋の味覚。マッシュルームスープパンだ」

「おお!」


 いつの間にか、日が暮れていた。

 居間のほうから、アニャとツヴェート様の楽しそうな話し声も聞こえてくる。いつの間にか帰宅していたようだ。


「食事にしようか」

「やった!」


 食卓にマクシミリニャンの作った料理が並べられていく。

 マッシュルームスープパンに鶏のパン粉焼き、それからマッシュルームのサラダもあった。贅沢なことに、上に薄くスライスしたトリュフが載せてある。


「あら、お父様。今日はごちそうね」

「たまにはいいだろう」


 家族みんなで食卓を囲み、食前の祈りを捧げる。

 森の豊かな恵みと、マクシミリニャンの料理の腕のおかげでおいしい料理が食べられる。感謝の気持ちでいっぱいになった。


「食べよう」


 マクシミリニャンの一言を合図に、各々食べ始める。

 まず、マッシュルームのスープパンから食べよう。

 蓋を開くと、ふんわりとバターの香りが漂う。匙で掬って食べた。


「あ、熱っ!」


 パンには保温効果でもあるのか。スープはアツアツである。

 マッシュルームのコリコリ食感が、クリーミーなスープと合うのだ。


「うん、おいしい!」

「そうか、よかった」


 アニャやツヴェート様もおいしいと大絶賛する。マクシミリニャンは笑顔を浮かべる。 続けてマッシュルームのサラダも食べてみた。

 キノコを生で食べるというのは、かなりドキドキする。勇気を振り絞って食べてみたら、ビックリした。

 豊かな香りが、口の中で広がったのだ。生のマッシュルームならではのものなのだろう。

 柑橘系のドレッシングがよく合っている。


「イヴァン殿、マッシュルームのサラダはどうだ?」

「おいしい」

「そうだろう、そうだろう」


 マクシミリニャンは満足げな表情で、頷いていた。

 秋の味覚マッシュルームを、満足いくまで堪能する。

 素晴らしい夕食だった。

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