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養蜂家と蜜薬師の花嫁  作者: 江本マシメサ


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養蜂家の青年は、秋の味覚を採りにいく

 久しぶりに、マクシミリニャンと共に山に入る。

 なんでも、秋の楽しみを収穫するらしい。


「お義父様、秋の楽しみって何なの?」

「マッシュルームである」


 そういえばと思い出す。夏が過ぎたら市場に多くのマッシュルームが売られていたな、と。実家のマッシュルーム料理は細かく刻まれた上に、水でかさ増しされたスープばかりだったので秋の味覚を味わうどころではなかった。


「イヴァン殿、アニャのマッシュルームスープは絶品であるぞ」

「俄然やる気が出てきた!」


 そんなわけで険しい野山を登りつつ、目を皿のようにしながらマッシュルームを探す。

 なんでも、マッシュルームには四種類あるらしい。

 歯ごたえがあり、品のある味わいが特徴の、真っ白で美しいホワイト種。

 ホワイト種と似た食感や味わいの、灰色がかったオフホワイト種。

 加熱しても縮まないのでスープや煮込み料理にオススメ、淡い褐色が特徴のクリーム種。

 香りが強く肉厚で歯ごたえがある、茶色のブラウン種。

 市場でよく見かけていたのは、クリーム種だった。中型のマッシュルームで、たくさん生えるようだ。

 マクシミリニャンのオススメはホワイト種。驚いたことに、生のままサラダに載せて食べるのがおいしい、と。

 キノコを生で食べるなんて……と驚いたものだが、マッシュルームに限り新鮮な状態で少量ならば生でもいいらしい。

 ただ、体調が悪い人やお年寄りなどは食べないほうがいいと注意される。

 危険を冒してまで食べたいマッシュルームのサラダとは……! 気になってしまう。


「イヴァン殿、他のキノコはいくら新鮮でも生食をしてはいけない」

「そもそも、キノコを生で食べるなんて、ゾッとするかも」

「そうだな」


 話しながら進んでいたが、急にマクシミリニャンが歩みを止める。

 急にしゃがみ込み、土を掘り始めた。


「お義父様、どうかしたの?」

「マッシュルームの他に、生食できるキノコを発見した」

「んん?」


 土の中に生えるキノコなのだろうか。しゃがみ込んでマクシミリニャンの手元を覗く。

 大きな手で掴んだのは、黒い塊。


「お義父様、それは?」

「トリュフだ」

「トリュフ?」


 なんでも、黒いダイヤモンドと呼ばれるくらいの高級食材らしい。貴族が多く行き来していた時代では、金貨一枚で取り引きされていたようだ。


「今は村で売っても、銀貨一枚になるかどうかだな」

「そうなんだ」


 なんでも、白トリュフと呼ばれるものもあると。黒トリュフは生や加熱で食べるのに対し、白トリュフは生でのみ食べるようだ。

 ちなみに白トリュフは一部地域でしか採れず、金貨五枚ほどで取り引きされていたらしい。この山には自生していないようだ。


「白トリュフの香りは、とてつもなくすばらしいものだ。今でも忘れられない」

「へー」


 おそらく、かつてのマクシミリニャンは高貴な身分だったのだろう。でないと、金貨五枚の白トリュフの味なんて知っているわけがない。

 しかしまあ、マクシミリニャンについていろいろ探るつもりは毛頭なかった。

 俺がマクシミリニャンの出生について知りたがらないから、こうして語ってくれるのだろう。

 マクシミリニャンの話は興味深いので、このままの状態を維持したい。


「この辺りでは、トリュフをどうやって食べるの?」

「濃厚なソースに仕上げて、リゾットやパスタに絡ませて食べるのだ。贅沢な時には、生のスライスを載せて食べるのが非常に美味だな」

「うわー、おいしそう」 

「他にもトリュフがないか、探してみよう」

「やった!」


 ちなみに、トリュフはどうやって探すのか聞いてみた。


「香りを鼻で感じるのだ」

「え?」

「トリュフがある場所には、ふんわりと濃い香りが漂ってくる」

「へ、へえ」


 なんでも、通常のトリュフ探しは犬や豚にトリュフの香りを覚えさせて探すらしい。一方で、マクシミリニャンは犬や豚の鼻を借りずともトリュフの香りを感じることができると。


「イヴァン殿も探してみるか?」


 そう言って、トリュフの香りをかがせてくれた。なんというか、土の香りしか感じない。自力で探すのは無理だろう。


 そのあとも、マクシミリニャンはマッシュルーム探しの合間にトリュフを発見する。


「イヴァン殿、またあったぞ」


 結果、マッシュルームはカゴいっぱいに、トリュフは六つほど発見した。

 マクシミリニャンってすごいの一言に尽きる。 

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