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養蜂家と蜜薬師の花嫁  作者: 江本マシメサ


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養蜂家の青年は、スズメバチの対策をする

 夏も盛りとなれば、スズメバチの活動が活発になる。

 それは、蜜蜂にとって危機的状況なのだ。養蜂家にとっても、用心し、必要であれば備えなければならない。

 なぜ、同じ蜂なのに警戒しなければならないのか。それは、蜜蜂とスズメバチの生態の違いにある。

 蜜蜂は花の蜜や花粉をせっせと集め餌とするのに対して、スズメバチはスズメバチの幼虫が分泌する液体を餌とするのだ。

 その幼虫の餌として昆虫を捕らえ、肉団子にしてから与える。

 そんなわけで、スズメバチは幼虫に餌を与えるために蜜蜂を襲うのだ。


 夏にさしかかると、養蜂家達は悪魔のような形相でスズメバチを捕獲し殺す。

 気をつけなければならないのは、スズメバチの毒だ。

 スズメバチは蜜蜂に比べて毒性がかなり高く、いくつもの強力な毒を有しているので『毒のカクテル』と呼ばれている。

 蜜蜂と違って毒針で刺すだけではなく、毒を噴射してまき散らす能力も持つ。毒が目に入ったら失明すると聞いたときには、ゾッとしたものだ。

 さらに、スズメバチはピンチのときに仲間を引き寄せる信号を出せるらしい。それによって集まったスズメバチに襲われたら、ひとたまりもない。

 さらに、刺される度に毒性が増していくという。最低最悪の外敵なのだ。


 ちなみにスズメバチの攻撃の多くは、自己防衛である。巣に近づきすぎたり、攻撃したり、接近したときに派手に追い払ったりしなければ、攻撃の対象になることはない。


 そんな感じでスズメバチは大変危険だ。

 なるべく近寄りたくないので、捕獲器を設置している。中に自家製の酢、酒、砂糖で作った誘因液を入れて、スズメバチを捕まえるのだ。


 誘因液の入った瓶を取り出すと、アニャは不思議そうに呟く。


「それを使って、スズメバチを捕まえるのね」

「そうだよ。アニャはこれまで、どうやって捕獲していたの?」

「ピンセットを持って、直接捕まえていたわ。そのまま、蜂蜜に沈めるの」

「とんでもない動体視力だ」


 そういえば以前、スズメバチの蜂蜜漬けを作っている話を聞いていた。なんでも、スズメバチの毒が蜂蜜に溶け出し、口から含むことによって薬となるらしい。


「ちなみにアニャは、スズメバチに刺されたことはある?」

「ないわ」

「そっか。気をつけないとね」

「それはお互いに」


 養蜂箱の近くに捕獲器を設置した。加えて、日差しが強く当たるような場所にある養蜂箱には、日よけの天幕を展開させる。


 流蜜期は過ぎ去ったが、蜜源は豊富にあるので餌切れになっていない。これが、山での養蜂なのだと、しみじみ感心してしまう。


「イヴァンの実家の養蜂園では、夏にも餌不足になるの?」

「そう。せっせと給餌していたんだよね」


 給餌をすると、純粋な蜂蜜ではなくなる。蜜源が限られている街での養蜂なので、仕方がない話なのだ。

 餌不足だとわかったら、糖液と代用花粉を与えていた。


「――あ」


 巣箱の入り口に、足を蜜でべたつかせた蜜蜂を発見する。すぐさま、ピンセットで捕らえた。


「盗蜂だ」

「あら、本当。よくわかったわね」

「なんか、ちょっと挙動不審だった」


 盗蜂というのは、言葉のとおり蜜を盗む蜜蜂の呼称である。


「ここの蜜蜂はそういうのをしないと思っていたけれど、やっぱりどこにでもいるんだね」


 実家の養蜂園では、よくあることだった。餌が足りていない証拠でもある。

 捕まえた蜂は、離れた場所で放す。


「もしかしたら、養蜂箱の蜜蜂ではないかもしれないわね」

「そうだね」


 いくら暮らしに困っているからといっても、盗みはよくない。もう盗むんじゃないぞ! と声をかけてから、解放してあげた。


 ◇◇◇


 一週間に一回くらい、伝書鳩がふもとの村から手紙を運んでくる。マクシミリニャンがやってきて、手紙を差し出してくれた。


「イヴァン殿宛ての手紙だった」

「え、俺? 誰からだろう?」


 封筒をひっくり返すと、ミハル・フランクルと書かれていた。


「ミハルからだ!」


 さっそく開封する。手紙には近況報告が書かれていた。なんと、あのサシャがしぶしぶ養蜂園で働いているらしい。

 しぶしぶという点が、らしくて笑ってしまう。

 サシャだけでなく、他の兄達もイヤイヤ働くようになったと。

 母は実家の女王蜂として、実力を発揮しているようだ。


 やはり、俺一人が頑張る必要は、欠片もなかった。思いきって家を出て、本当によかった。


 本題に移る。なんでも、ここ最近、甥のツィリルが寂しがっていると。

 リブチェフ・ラズまで連れて行くので、会ってくれないか、というものだった。


「イヴァン殿、親友殿に何かあったのか?」

「ううん、甥が、俺に会いたいって言っているんだって。それで、リブチェフ・ラズまで連れて行くから、面会の時間を設けてくれって」

「そうかそうか。ならば、アニャを連れてリブチェフ・ラズまで行くとよい」

「いいの?」

「ああ。ここのところ、働き詰めだろう? 息抜きにもなる」


 働き詰めなのは、マクシミリニャンも同じだろう。けれど、久しぶりにミハルやツィリルに会いたい。アニャも、紹介したいし。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 アニャを連れてリブチェフ・ラズまで行き、ミハルやツィリルと会わせることに決まった。

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