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養蜂家と蜜薬師の花嫁  作者: 江本マシメサ


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養蜂家の青年は、薪を作る

 二人がかりで、川まで大木を運ぶ。と言うよりは、緩やかな斜面を転がすと表現したほうが正しいのか。

 大木は俺たちを置いて、どんどん下っていく。そのまま川に落とすのかと思いきや、せき止めるように川縁に経つ木の前で止まっていた。

 マクシミリニャンは川辺の木杭に結んである紐をたぐり寄せる。川から上げられたのは、紐が巻かれたくさびを打ち込んだ、丸太である。それは赤子ほどの大きさだった。さすがに、そのまま川に沈めるということはしないようだ。

 同じような紐がいくつかあった。すべて、川に樹液を洗い流す目的で沈めた丸太なのだろう。


「ここにある紐、全部引き上げるの?」

「ああ、そうだ」


 マクシミリニャンと二人がかりで、川に沈めた丸太をどんどん引き上げていく。

 赤子ほどの丸太は十個くらいあった。

 今度は先ほど運んできた大木を、川に沈めるらしい。

 マクシミリニャンはのこぎりを手に取り、まるでパンをカットするかのごとくサクサクと大木を切り分ける。


「その木、堅い?」

「そこまで堅くはない」


 トネリコという、弓や槍など、武器に使われる木材らしい。煙が少なく、火力が強いことから、真冬の薪として重宝しているようだ。


「イヴァン殿も、やってみるか?」

「うん」


 足で木を踏んで固定させ、のこぎりの歯を当てる。

 実家では、よく養蜂箱作りをしていた。のこぎりの扱いは慣れている。

 このトネリコの木は、よほどやわらかいのか。信じられないくらい、切りやすそうに見えた。

 だが――。


「うぐっ!!」


 トネリコの木は、マクシミリニャンがしていたようにサクサク切れない。全力でのこぎりを押しては引きを繰り返したのちに、やっと切れた。

 トネリコの木がやわらかいわけではなく、マクシミリニャンの筋力がとんでもないのだ。 同じように切れると思った十分前の自分を、叱り飛ばしたい気分になる。


「しだいに、慣れる」


 本当にそうなのだろうか? 怪しく思ってしまった。


 切り分けた丸太に紐を結んだくさびを打ち込み、川へ沈める。流されないよう、木杭に結んだらしばらく放置して樹液を洗い流すのだ。


 先ほど川から上げた丸太は、切り分けてから運ぶらしい。マクシミリニャンは丸太から薪を作る方法を教えてくれる。


「まず、この丸太の切り口に打ち込んだくさびを、石のハンマーで叩くのだ。さすれば、丸太が割れる」


 マクシミリニャンがハンマーでトントントンと叩くと、丸太に裂け目ができた。今度は、くさびを表面の裂け目に差し込み、ハンマーで叩いていく。くさびを使って裂け目をどんどん広げていくと、丸太は真っ二つに割れるのだ。


 実に簡単にやってくれたが、初めてやる俺にとっては重労働であった。汗だくになった末に、なんとか丸太を割ることに成功した。

 もちろん、これで終わりではない。真っ二つにした木を、おのと木づちを使って四分割から八分割ほどに割るのだ。


「へー、木づちを使うんだ」

「おのだけならば、腕が疲れてしまうからな」


 マクシミリニャンは木の切り口におのを当て、柄を木づちで叩く。

 一発で、木を真っ二つにした。


「この通り」

「おお」


 薪割りも実家でやっていた。だが、木づちを使う方法は初めてである。

 マクシミリニャンがやっていたようにおのの刃を木に当てて、柄を木づちで叩いた。

 すると、そこまで力を入れずとも、木が切れていく。あっという間に、パッカリと二つに分かれた。


「これ、すごい。やりやすい!」

「だろう?」


 これまで、薪割りは重労働であった。しかしこのやり方であれば、それほど体力を消費せずにできただろう。

 簡単に割れるのが面白くて、どんどん薪を作っていく。

 その様子を、マクシミリニャンが涙目で見ているのに気づいてギョッとした。


「え、何? どうしたの?」

「いや、娘婿に、こうして技術を継承できることに対し、感激を覚えてしまい……」

「いや、まだ結婚していないから」


 話しているうちに、マクシミリニャンはだーっと涙が零れ始めた。

 マクシミリニャンといい、アニャといい、涙もろい親子である。

 ハンカチを差し出したら涙を拭い、鼻までかんで返してくれた。戻ったら、洗わなければならないだろう。


 背負子に薪を積み、下ってきた坂を上がっていく。これが、地味に辛い。


「明日はきっと、筋肉痛かも」

「それも、じきに慣れる」


 慣れたころには、マクシミリニャンのように筋骨隆々になっているのか。

 それも悪くはないけれど、俺の貧相な顔つきに筋肉は似合いそうにないなと思ってしまった。

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