表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
養蜂家と蜜薬師の花嫁  作者: 江本マシメサ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

140/156

番外編 蜂蜜カフェを開こう 第一話

 ある日、思いがけない企画が飛び込んできた。

 なんでも、村で二日限定で蜂蜜カフェを開かないか、というものだった。

 村の収穫祭の日で、毎年食堂がてんてこまいになるらしい。もう一軒、お店があったら助かると。

 山に若夫婦を派遣するので、俺とアニャでカフェを開いてくれないか、というものだった。


「面白そうじゃないか。ちょうど蜜蜂たちも落ち着いてきたから、やってみるといいよ」

「でも、お父様とツヴェート様を残して、家を空けるわけには……」


 あまり仲がよろしくないふたりである。果たして、家を空けていいものなのか。


「何を言っているんだい! あたし達は仲良しさ! なあ、マクシミリニャンよ!」

「う、うむ……」


 ツヴェート様はマクシミリニャンの肩を抱き、仲良しアピールをしている。

 マクシミリニャンが萎縮しきっていて、まったく良好な仲には見えなかった。


「冗談はさておき。村から若夫婦がくるって話だから、心配は無用だよ。それに、皆が思っているよりも、あたし達の仲は悪くはない」


 たしかに、ツヴェート様のマクシミリニャンに対する態度は厳しい。けれども、嫌っているようには見えなかった。

 別にふたりきりというわけでもないから、問題ないだろう。


「あたしらの不仲問題はどうでもいいから、あんた達はどうなんだい?」

「私は――」


 アニャはちらりとこちらを見る。瞳から「私は挑戦してみたいけれど、イヴァンはどうかしら?」という感情を読み取った。


「俺もやってみたいけれど、自分達だけで営業が成り立つのか不安で」

「私は大丈夫よ」


 去年、収穫祭に参加したが、食堂は行列ができるくらいの大盛況だった。

 あのお客さんの三分の一がやってきたとしたら、果たしてふたりだけでさばききれるものか。

 というか、俺がアニャの足を引っ張りそうで恐ろしい。


「うーーーん」


 腕を組んでどうしたものかと考えているところに、伝書鳩がやってくる。足には手紙がくくりつけられていた。

 差出人はミハル。手紙には気晴らしに遊びに来たいと書いてあった。今回はひとりで。

 何か手伝うことがあれば、働くともある。


「あ、ミハルの手を借りたらいいのか!」


 調理場はアニャ、接客はミハル、俺は状況に応じて調理や接客をする。これならば、なんとかやれなくもない気がした。


「ミハルに聞いてみてからでも、判断は遅くないかな?」

「ええ、大丈夫だと思うけれど」


 早速、ミハルにお伺いの手紙を書いた。すると、すぐに返事が届く。

 なんと、手を貸してくれるらしい。

 そんなわけで、アニャと俺、それからミハルの三人で蜂蜜カフェを開くこととなった。


 ◇◇◇


 蜂蜜カフェのオープンが決まってからというもの、アニャは張り切って試作品作りをしている。

 目玉は、蜂蜜パンケーキ。

 山羊のバターを載せて、蜂蜜をたっぷり垂らす。

 味見をしたが――表面はカリッと、中はもっちりな味わいのパンケーキに、蜂蜜がよく合う。間違いようがないおいしさだった。

 他に、蜂蜜蒸しケーキに、蜂蜜プリン、蜂蜜焼きリンゴに、リンゴの蜂蜜パイと豊富なランナップとなった。

 しょっぱいメニューも欲しいとのことで、マスの蜂蜜タルタルソース焼きに、蜂蜜チキンサンド、蜂蜜ヨーグルトサラダ、蜂蜜ニンジンスープなどなど、村の特産品を使った料理をアニャは考える。

 試作品が仕上がるたびに味見をしたが、どれもおいしかった。

 頭の中にレシピを叩き込み、当日バリバリ動けるようにしておく。


 作り置きできるお菓子は、窯が空いている時間にどんどん焼いていった。

 台所の周囲は甘い匂いで包まれる。焼きたてを味見しているひとときは、至福の時間であった。


 収穫祭の前日に、若夫婦がやってきた。入れ替わるように、俺とアニャは山を下りる。

 アニャがいつもより元気がないような気がしたので、休憩を早めに取った。


「アニャ、どうかしたの?」

「あ、えっと、お店を開くのははじめてだから、上手くいくのかと思って」

「ああ、そういうことか。俺は上手くいくことしか考えてなかった」


 正直に答えると、アニャに笑われてしまった。


「イヴァンが羨ましくなるわ」

「能天気なだけなんだと思う」

「前向きなのよ」


 アニャが考えた料理はどれもおいしかった。きっと、収穫祭にきた人達にも喜んでもらえるだろう。

 自信を持っていいと、アニャを励ます。


「そうよね! 上手くいくに決まっているわ」

「アニャ、その調子だ!」


 明日、蜂蜜カフェがオープンする。

 たくさんのお客さんが来たらいいなと思った。  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ