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ルゥと人間の家族~後編~

「ルゥちゃん? 見て? 前ヴォジャノーイ王が選んだドレス……とても素敵ね」


 赤黒い、じいじの瞳の色のドレス。

 少し大人っぽい感じがする。

 魔族の前王妃として参加するのにふさわしいドレスだ。

 会場に入ったら前王妃らしく振る舞わないと。


「緊張しているの? 大丈夫よ? 人は皆、ルゥちゃんが聖女様で前王妃だと知っているから。誰も何もしてこないわよ……?」


 おばあ様が微笑みながら髪を撫でてくれる。

 優しい手だ。

 前世のおばあちゃんを思い出す。


 それにしてもコルセットは何回着けても苦しくて仕方がない。

 前世ではコルセットなんて着けた事がなかったし、今世でも普段はチューブトップにアラビアンパンツだから。

 時々、宴で着けるコルセットは苦痛でしかない。

 皆よくこんな苦しい物を着けて踊ったりできるよ……


 結局、身支度に二時間もかかった。

 

 少し大人びたメイクをしてもらって、髪型も編み込んでアップにした。

 見た事のない形の髪飾りを編み込んだ髪に飾り付けてもらって、完成。


 うわぁ……

 鏡の中の自分がいつもと違い過ぎて言葉にならない。


「今、前ヴォジャノーイ王を呼んで来るわね」


 そう言って、おばあ様が身支度をしてくれていた老女達と部屋を出て行った。

 老女達はずっと泣いていたな。

 わたしがルゥのお母さんにそっくりだって何回も言っていた。

 お母さんは皆から愛されていたんだね。


「ルゥ?」


 じいじの声だ。


「じいじ? 支度が終わったよ?」


 じいじが部屋に入って来る。

 似合っているって言ってもらえるかな?


「誰にも見せたくないくらい綺麗だ……」


 じいじの言葉と優しい瞳にドキドキする。


「じいじ……恥ずかしいよ……」


 顔だけじゃない。

 耳まで熱い……


「ルゥ……耳まで真っ赤になっているぞ?」


「……!?」


 じいじの言葉にもっと恥ずかしくなる。


「ルゥに渡したい物がある」


 え?

 今?

 なんだろう?


 じいじが綺麗な箱を差し出した?


「何?」


「目を閉じるのだ」


 目を閉じるの?

 じいじが首と耳に飾りをつけてくれるのが分かる。


「もう開けていいぞ?」


 じいじの言葉に目を開けると……


 うわぁ……

 すごい。

 鏡に映るわたしのイヤリングとネックレスが輝いている。

 何の宝石なんだろう?

 じいじの瞳の色と、わたしの瞳の青い色。

 青い宝石はルゥのお母さんが持たせてくれたイヤリングについていた物だ。

 ドレスにつけた物を作り直してくれたんだね。


「ドワーフがどうしても作りたいと言ってな。ルゥへのつがいの祝いの贈り物らしい」 


 ドワーフのおじいちゃんが……?

 嬉しいな。

 今度会ったらお礼を言わないと。


「それと、このネックレスとイヤリングは人間には少し強い」


「強い?」


「そうだ。特殊な宝石でできているのだ。だから、大切な人間には触らせてはいけない」


「もし触ったらどうなるの?」


「絶対に触れないだろうが、死ぬだろうな」


 ええ!?

 そんな怖い物があるの?

 ん?

 絶対に触れないの?

 どうして?


「今日の宴が終わったらドワーフが元のイヤリングの形に戻してくれる。ルゥの身を守る為に宴の間は外してはいけないぞ?」

 

 絶対に触らせないよ。

 あれ?

 でも……


「じいじ? どうしてわたしは平気なの?」


 普通に生きているよ?


「それはルゥが聖女だからだ」


 そうなんだ……


「本当はルゥを人間の宴に参加させたくはなかった。だがこの宴を逃したら、いつ兄に会えるか分からなかったからな」

 

「お兄様が王様になって忙しいから?」


「それもあるが……ルゥ? 前にいた世界には新婚旅行というものがあるらしいな? ハーピーが卵を産んだら、卵から子が出てくるまでの間で行ってみないか? ハーピーもその方が静かに過ごせるだろう」


 ママも静かに卵を温めたいよね……

 新婚旅行……

 嬉しい!

 

「すごく嬉しいよ! どこに行くの?」


 ニコニコのわたしを、じいじが抱きしめてくれる。


「ルゥの行きたい所ならどこにでも連れて行こう」


「どこでもいいの? じゃあ……温泉!」


「温泉か……そうだな。雪山の中にある幻の温泉にでも行くか。運が良ければ入れるらしいぞ?」


「雪山の温泉!? 楽しみだなぁ」


 じいじと二人きりで温泉に行けるんだね。

 運が良くないと入れないの?

 どうしてかな?


 この世界に来てから、雪は初めて見るかも。

 前世では毎年冬になると雪かきが大変なくらい降ったから……


 おばあちゃんが怪我をしないように、冬はずっと雪かきをしていたよね。

 今は常夏の島だから雪かきをする事もないけど……


「ルゥ? どうした?」


「え……? あぁ、おばあちゃんの事を思い出していたの。前世の時は雪がたくさん降ったから」


「そうか……ルゥは、おばあさんが好きだったのだな」


「うん……おばあちゃんが笑ってくれるだけですごく幸せだったの」


「おばあさんも、きっとルゥに笑っていて欲しいと思っているはずだ」


 じいじ……

 ありがとう。


「そうだね……」



「ルゥちゃん? そろそろ時間よ?」


 おばあ様が呼びに来てくれる。

 

 ついにお兄様に会えるんだ。

 人間の宴……

 無事に終わればいいけど。

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