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前世の神と、ルゥの家族

「うわぁ……これがルゥのお兄さんの国……」


 明け方にリコリス王国に到着したわたしは、その整備された町並みに驚いていた。

 おばあ様の国も素敵だったけど、リコリスは大国って感じだよ。

 でも、新しい建物ばかりのような?


「聖女様……人間にはお気をつけください。宴の最中はわたしと前王から決して離れないでください」


 人間の姿のイフリート王が心配そうに話しかけてくる。

 イフリート王は元々人間の姿にヤギの角みたいな物が生えている姿だから、角を魔術で隠しただけで人間に見える。

 キラキラのオレンジ色の髪に赤い瞳。

 服の上からでも分かる筋肉質な身体。

 宴の為に正装しているからいつも以上にカッコいい。

 

 手を繋いで歩いているじいじも、人間の姿になっている。

 いつもの髪が生えていない蛙の顔が、銀色の短髪に白い肌になっている。   

 赤黒い瞳はそのままで、四十歳くらいに見える。

 すごく素敵だ。


 今は、おばあ様のタウンハウスまで歩いて向かっている。

 タウンハウスは貴族の別荘みたいな感じの物らしい。

 自分の領地以外に建てる家で、宴が開かれる時とか王都で仕事をする時に泊まる場所なんだって。

 イフリート王とじいじとわたしの三人だけだって聞いていたけど、少し離れた場所にヴォジャノーイ族のおじちゃん達の気配を感じる。


 宴はお昼過ぎからの三時間行われるらしい。

 本来、宴は夜から開かれるらしいんだけど今回は民への挨拶をしたいというお兄さんの要望で明るい時間から始まるらしい。

 

 人間の宴は初めてだ。

 漫画だと悪役令嬢にワインとかをかけられたり、転ばされたりするけど……

 わたしは反射神経が鍛えられているから簡単に避けられるだろうな。

 意地悪をされたりするのかな?

 魔族の前王妃で、聖女で、リコリス王国の王妹だから大丈夫かな? 

 いつの間にか色々な称号がついている……

 前世では普通の女子高生だったし、変な感じだ。

 

 前世……か。

 前世の集落から異世界に三人も転移して、今一緒に暮らしている。

 自称神様は、この事に確実に深く関わっているだろう。

 それに……

 わたしのいた集落では昔から急死したりする人間が多かったんだ。

 お兄ちゃんが自転車事故で亡くなった時……

 集落のお年寄り達が、この集落はおかしいって過去の記録を調べたんだ。

 お兄ちゃんが崖から落ちたであろう場所にはきちんと安全対策の柵が取り付けてあった。

 間違ってもそこから落ちるはずはなかった。

 過去の記録には、確か神隠しにあった花火師の事が書いてあった。


 五年したら帰って来る約束で江戸に行った男性がいた。

 でも五年経っても帰って来なかったから、集落の人間が花火師の同僚に話を訊きに江戸まで行ったらしい。 

 すると数年前、手持ち花火の吹き出している火の中から忽然と消えたと教えられた。

 もしかしたら、二兵衛さん……?

 集落の人間しか入れない集会所には、不自然に亡くなったり行方不明になったりした記録が大切に保管されていた。

 昔の集落の人間達も集落の異常さに気づいていたのかな?


 でも……

 皆、集落から出て行こうとしなかった。

 それは大昔、貧困に苦しんでいた集落に神様が現れて一本の木を植えてくれた伝説があるからなんだ。

 集落の人間達は、その木の実を食べてなんとか飢えをしのいだ。

 というよりも、その実を食べると長生きできるとさえ言われたらしい。

 その木を守らなければいけないと幼い頃から教えられているから皆、集落に残ろうとするんだ。

 だから海が無い群馬に海洋学者のお父さんも住み続けていたんだね。

 それから豊かになった集落では、一歳になった子供に縁起物としてその実を食べさせたんだ。

 集落には他にも、結婚する時はよその場所から結婚相手を連れて来ないといけない決まりがあった。

 集落の人間同士の結婚は絶対に許されなかった。

  

 あれ?

 そういえば……

 どの家も子供が産まれると、すぐに片親が亡くなっていなかったかな?

 だから皆、一人っ子だったよね。

 亡くなったのは、皆よそから来た人間じゃなかった?

 元から集落にいた人間は長生きしていた。

 これは……

 何かありそう。

 それに……

 神様?

 集落に伝わるのは昔話的なものだった。

 でもその神様がお兄ちゃんが言っていた神様だったとしたら?


 もしそうなら神様はどうして集落に木を植えたのかな?

 帰ったらお父さんに相談してみよう。


「ルゥちゃん……? 来てくれたのね」


 おばあ様の声で現実に引き戻される。

 立派な建物の前に、数人の人間が立っている。

 以前、船で会ったお年寄り達もいる。

 それに……

 銀の髪の中年男性……?

 もしかして、ルゥの叔父さん?


「きみがルゥちゃんか……やっと会えたね」


 優しく抱きしめられる。

 お母さんの弟……

 確か、小国だけど武力に優れた国の王様だっけ?

 

 そういえば、お母さんのお姉さんも亡くなっているんだよね。

 二人も娘を喪うなんて……

 おばあ様は辛かっただろうな。


「中に入ろう。まずは湯浴みをして……それからゆっくりお茶をしよう。話したい事がたくさんあるんだ」


 叔父さん……

 優しそうな人間だ。

 ルゥのお母さん……

 今日やっと、ルゥのお兄さんに会えるよ。

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