陽太とおじちゃん
今回はピーちゃん(陽太)が主役です。
「オジチャン? イマ、ヘイキ?」
明け方の魔王城の執務室で、おじちゃんに話しかける。
「ああ、陽太君。今まで気づかなくてごめんね。月海に聞いて驚いたよ」
おじちゃんは群馬にいた頃と変わらない優しい話し方だ。
ボクも驚いたよ。
おじちゃんがマンドラゴラで、しかも魔王だなんて……
「アノネ、マオウジョウ、ケッカイ、ハッテアル?」
神様に話すなって言われているから……
もしかしたら神様に見られているかもしれないから確認しないと。
「そうだね。大切な話を盗み聞きされないようになっているよ?」
よかった。
おじちゃんには、きちんと話しておかないと。
もしかしたらボクは神様に殺されるかもしれないし……
「オジチャン、ボクワカッタノ。ゼンセノ、シュウラク、コノセカイニ、テンイ、スル、ニンゲン、ツクル、バショ」
「え? どういう事?」
おじちゃんが驚いている。
前世の集落とこの異世界が繋がっているなんて信じられないよね。
「カミサマ、ホンモノナノ。ボクタチニ、ナニカ、サセルタメ、アノ、シュウラク、ツクッタ」
「……神は何て言ってたの?」
「ルーチャン、ソバ、イタイナラ、ダマッテロ、イッタ」
今、話しているのが聞かれていないといいけど。
「……陽太君、この話は誰にもしたらいけないよ? 後はボクに任せて。これ以上は危険だ」
「オジチャン……」
「月海達はルゥの兄のパーティーに行ったんだ。皆が帰って来るまではボクのそばから離れないんだよ? それから神に会いに行くのも危険だ。絶対にダメだよ?」
さっきの神様は怖かった。
もう会いに行きたくないよ。
ベリアルは今マンドラゴラ達と眠っている。
もう天使の時の記憶はなくて、鳥として生きていく事になったんだ。
天界にはボクに付いて来ているだけで、特に何かを思い出してもいないみたいだし。
「ウン。モウ、イカナイ」
「と言っても、ボクもマンドラゴラだから戦えないんだけどね」
「ボクモ、イマ、ユウシャ、チガウ。タタカエナイ」
「こうなる事も神は分かっていたのかもしれないね」
「カミサマ、ナニカ、タクランデル?」
「確実に月海にヴォジャノーイの子を産ませようとしている。その子に何かさせようとしているに違いない」
「ソンナ……ゼッタイダメ」
「うん。魔族の皆が月海を守ると言ってくれているんだ」
「ウン……」
「二人が惹かれ合っているのは神に仕組まれた事じゃないはずだよ? 全て神の思い通りに進んでいるなら月海が子孫繁栄の実を食べていたはずだ」
「ウン。ルーチャンハ、ホントウニ、コイシテルヨ」
誰が見ても相思相愛だから。
「陽太君……ボクのお母さん。月海のおばあちゃんはどうして亡くなったんだろう? 知ってる?」
ボクと同じ事を考えていたんだね。
「エ……ソレハ、ワカラナイ」
「そうか。ごめんね。月海には訊きにくくてね」
「ボク、オバアチャン、イキテルトキ、テンイシタ。ゴメン」
「いや、月海に訊けないボクが悪いんだ」
「ルーチャンニハ、キカナイデ」
訊いちゃダメだよ。
もしおばあちゃんが夢遊病の時に亡くなっていたのなら、ルーちゃんは自分を責めるはずだから。
「え? 陽太君?」
「ルーチャン……カワイソウ……」
おじちゃんの顔が寂しそうになる。
何かを察してくれたのかな?
「……分かったよ。月海には訊かないよ。あと、ありがとう。前世で月海をずっと助けてくれていたんだってね」
「エ?」
ボクは助けてなんていないのに。
「月海が言ってたんだ。陽太君がいつも助けてくれたって」
「ルーチャン……」
違う。
ボクは何もできなかったんだ。
そばにいてあげる事しかできなかった。
助けてなんていないんだ。
ルーちゃんがおばあちゃんを見守りながら歩いていたあの時も、泣いているルーちゃんを見ている事しかできなかった。
今世は違う。
もう見ている事しかできないなんて嫌だ。
ルーちゃんはかわいい妹なんだ。
だから守るんだ。
ルーちゃんを泣かせる奴は絶対に赦さない。
でもどうすればいい?
というより、ボクは勇者になる為にこの世界に来たはずだ。
たぶんボクを生かしているのは、ルーちゃんの子に憑依させる為。
ボクはまた勇者として魔族を倒すの?
絶対に嫌だ。
皆すごく優しいんだ。
敵になんてなりたくない。
でも、違う……?
魔族を倒す為に異世界に集落を作るかな?
過去に数回勇者として魔族の討伐をしたけど、そのうち何回かは魔王を倒した。
魔族を全滅させるのが目的じゃないのかも。
もしかして、もっと別の何かをボクにさせようとしている?
神様は……
この世界の神様は一体何を企んでいるんだろう?




