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ルゥとマンドラゴラのクッキング~前編~

 キッチンにはマンドラゴラ達が使えるように、小さいサイズのキッチンセットもある。

 ウェアウルフ王達が作ってくれたんだけど、そこにマンドラゴラ達が立つとすごくかわいい。

 

 パパが、パンの一次発酵までしていたからあとは成形して二次発酵させて焼くだけ。

 せっかくマンドラゴラ達がお手伝いをしてくれているから……

 そうだ、かわいいクマさんとかウサギさんとかの形のパンを作ろうかな?


「聖女様、何かお手伝いする事はありませんか?」 


「わたしもぜひお手伝いをしたいのですが……手が肉球でして……」


 ウェアウルフ王、グリフォン王……

 いつもありがたいよ。

 とりあえず……

 肉球を触っておこうか。


「グリフォン王、気持ちだけですごく嬉しいよ」


 グリフォン王の肉球をプニプニ触っていると、従者の二人も触って欲しそうにわたしを見ている。

 あぁ……

 かわいい。

 従者達もグリフォン王もお腹を出して寝転んでプニプニさせてくれる。

 幸せ……

 ついでにお腹を吸わせてもらおう。

 グリフォン王は頭は鳥で体は大きい猫みたい。

 肉球も大きくて、足の先をちょっと押すと爪が出てくるところがすごくかわいい。


 さてモフモフを満喫したし、そろそろ始めようかな?


「聖女様! 我々もモフモフしてください!」


 ウェアウルフ王……

 今日はいい日だ……


 さて、ウェアウルフ王と従者を撫でて吸って大満足したし今度こそ始めるぞ!


 キッチンに横たわり恍惚としている皆のお腹に布をかける。

 風邪をひいたら大変だからね。


「皆でかわいいパンを作ろうね」


 マンドラゴラの子供達と形を作り始める。

 一生懸命小さい手で作る姿がかわいいな。

 お父さんに里芋の煮っころがしも作らないと。

 あとはスープとプリンと……


「「「これは一体!?」」」


 キッチンの入り口から、重なり合う低い声が聞こえてくる。


 あれ?

 この声は……

 声がする方を見るとケルベロス王と従者が二人いる。

 もしかしてピーちゃんの血の契約をしに来たのかな?

 でもイフリート王がいないから違うかな?

 何か驚いているみたいだけど、どうしたんだろう?


「ケルベロス王、おはよう。どうしたの?」


「聖女様、これは何があったのですか? ……まさか倒したのですか?」


 え?

 倒した? 

 何を?

 あれ?

 ケルベロス王の従者の二人も頭が三つなんだね。

 うわあ……

 自分の頭同士で話をしている。

 かわいいかも……


「聖女様? どうかなさいましたか?」


 ケルベロス王が心配そうにしている?

 しまった……

 ケルベロス族を撫で回したくて、ボーっとしちゃった。

 

「どうもしないよ? ケルベロス王はピーちゃんに会いに来たの?」


「いえ、聖女様にご挨拶をと思いまして……それと魔王城が移動して来たと聞いて様子を見に……あの、聖女様? 何を?」


 あれ?

 しまった!

 いつの間にかケルベロス王の頭のひとつを触っている!?

 無意識に触っていたよ……

 ん?

 この前は毛が硬かったけど今日はフワフワしている?

 ウェアウルフ王には敵わないけど、なかなかいいかも。

 それにこの匂い。

 もしかして……


「ケルベロス王? この匂いって、もしかしてクロモジ?」


「え? よくご存知ですね。クロモジから作った精油を使った石鹸を使っています」


 この世界にもクロモジがあるんだ。

 クロモジはアロマテラピーにも使われる木で甘い香りがする。

 リラックス効果や肌の保湿にもいいんだよね。

 ママの寝不足にも効くかも。


「ケルベロス王? お願いがあるんだけど、クロモジの精油を一滴もらえないかな?」


 クロモジの精油は高価なんだよね。

 ハンカチに一滴垂らすだけでもよく眠れるはず。


「一滴でよろしいのですか?」

 

「うん。あのね、ママが妊娠中で寝不足なの。だから……」


「聖女様、クロモジの木ならウェアウルフ王国にたくさんありますが」


 ウェアウルフ王が起き上がりながら教えてくれたけど……

 たくさんあるの?

 さすが自然に精通している種族だね。

 

「それなら……グリフォン族に協力してもらい数本運んで来て、幸せの島に植えてみてはいかがですか? オークなら精油に加工できると思いますが」


 そうか、パパならできるかも。

 でもパパも疲れているみたいだし……


(ルゥよ。わたしなら手伝えるぞ?)


 あれ?

 この声は、おじいちゃん?


「手伝えるって何を?」

 

 何か手伝ってくれるのかな?


「聖女様? どうかなさいましたか?」


 ケルベロス王が驚いた表情で尋ねてきた?

 え?

 あぁ、そうか。

 おじいちゃんの声はわたしにしか聞こえていないんだった。

 いきなり独り言を話し始めたかと思ったんだね。


(クロモジが手に入ったら、いつでも精油にしてやろう)


「ありがとう。おじいちゃん。今ね、水の精霊のネーレウスのおじいちゃんとお話しているの」


「ネーレウス!? あのネーレウスですか? 確か上位精霊のはずですが!?」


 ケルベロス王が驚いている。

 上位精霊は普通の精霊とは違うからね。

 魔族でいうと種族王みたいな感じかな?

 驚くのも当然だよね。


「ケルベロス王よ。幸せの島にいれば驚く事ばかり起きる。これくらいで驚いているようでは体がいくつあっても足りないぞ?」


 さっきまでお腹を出して恍惚としていたグリフォン王が起き上がりながら話し始めた。


「そうなのか? グリフォン王もウェアウルフ王も驚かないのか? あのネーレウスと契約しているんだぞ? まさか魔王城があの距離を移動して来た事にも驚かないのか?」


 ケルベロス王……

 必死だね。

 そうだよね。

 あれだけ大きい島が移動して来れば普通は驚くよね。


「実は、あの日……ドラゴン王が魔王城を移動するところを見たんだ……」


 え?

 ウェアウルフ王は見ていたの?


「わたしもだ。幸せの島から帰る途中でな。さすがはドラゴン王だ」

 

 グリフォン王も見ていたんだ。

 それで次の日に魔王の島が移動して来ていても驚かなかったんだね。


「魔王は聖女様が心配なんだろう。人間が聖女様の存在に気づいたようだからな。わたしは聖女様以外の人間は嫌いだ。他人を利用する事しか考えない奴らだ」


 グリフォン王?

 人間がわたしの存在に気づいたの?

 そういえばルゥの父親が聖女のルゥを利用しようとしていたって人間のおばあ様が言っていたような……


 前世の人間も集落にいるような優しい人達だけじゃなかった。

 年金暮らしのお年寄りを騙して幸せを奪い取っていく詐欺師もたくさんいたんだ。

 今世で魔族の中で育ったからかな?

 魔族の方が優しく思えて仕方がない。

 もちろん、おばあ様は優しくて大好きだけど……

 わたしは人間よりも魔族の方が好きなんだ。

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