幸せの島と魔王城
魔王城での宴の翌朝___
深夜まで色々あったわたし達は、のんびり朝寝坊していた。
王様達も今日は夕方くらいに遊びに来てくれるらしい。
いつもだったらマンドラゴラの子供達の元気な笑い声で賑やかなんだけど。
静かだなぁ。
わたしは、じいじのベットで抱っこしてもらいながらぼんやりしている。
眠っているじいじのひんやりする腕が心地いい。
これからは毎日じいじと一緒に寝られるんだね。
幸せだよ……
パパの焼くパンの甘い匂いがしてくる。
パパは起きているんだ……
そういえばベリアルはどうなったんだろう?
あのヒヨコはベリアルなんだよね?
この島にはピーちゃんもいるし、ベリアルがいたら嫌じゃないかな?
でもパパはヒヨコが好きだから、今になって取り上げたらかわいそうだよね。
どうしたらいいんだろう……?
眠っているじいじを起こさないようにそっとベットから出る。
とりあえずパパとベリアルの様子を見に行こう。
キッチンを覗くとパパがベリアルに木の実を食べさせている。
「ルゥ? よく眠れたぁ?」
パパはニコニコの笑顔だね。
困ったな……
ベリアルをウリエルに返そうかと思っていたんだけど、こんな顔を見たら言い出せないよ。
「うん。パパは早起きだね。ベリアルはどう?」
「ヒヨコちゃん? かわいいよぉ?」
あぁ……
昨日は気絶していたけど、今はすっかり懐いている。
ベリアルとしての記憶はあるのかな?
じっとベリアルを見つめてみる。
うーん。
少し大きめのヒヨコだよね。
わたしの顔より少し小さいくらい?
クリーム色のヒヨコ……
つぶらな瞳……
すごくフワフワ……
かわいい……
抱っこして吸って撫でたい。
あれ?
ダメダメ!
しっかり観察しないと!
そういえば昨日はピオって鳴いていたよね。
ピオ?
かわいい……
この見た目でピオとか言われたらもう……
……!
ベリアルがつぶらな瞳でわたしを見つめ返している!?
ううっ!
かわいさに……
魅了されていく。
まさか魅了の力を使えるの!?
「ヒメサマ? ドシタノ?」
ピーちゃんがキッチンに入って来た。
「あのね……ベリアルがかわいくて、ウリエルが嫌がらせなの!」
「エ? チョット、ヨクワカラナイ」
わたしも分からないよ……
「アト、ベリアル、アズケタノ、ウリエル、チガウ」
え?
ウリエルが押し付けてきたんじゃないの?
「マオウノ、ネガイ、カナエタ、テンシ」
お父さんが魔力を渡した天使の事かな?
「ナンカ、スゴク、エライ、カンジダッタ」
偉い感じ?
確かウリエルは大天使だったよね?
それより偉い天使?
「まさか、本物の神様だったりして……?」
ピーちゃんと顔を見合わせる。
……まさかね?
ゴゴゴゴゴ
……!?
地鳴り!?
島が酷く揺れ始めた!?
何?
地震?
立っていられない!
じいじとママが慌ててキッチンに入って来た。
「ルゥ!? 大丈夫か?」
じいじに抱きしめられる。
すごく安心するよ……
でも……
この揺れは何?
「オーク!? 生きてるか?」
ママ……
昨日は怒っていたのに、パパを守っている。
あれ?
パパもママも恥ずかしそうにしている?
仲直りしたのかな?
家の中の色々な物が落ちてくる。
もう二分近く揺れているよね?
「ずいぶん長いな」
じいじが呟いた。
確かに。
長いし、それにこの感じ……
「ばばあの気配だ」
ママがパパを抱きしめながら険しい顔をしている。
ばあばが何かしているの?
……?
あ……
揺れが収まった?
「外に出てみる? ばあばがいるかも」
まさか、ドラゴンの姿で大暴れしているとかじゃないよね?
皆で外に出ると……
え?
どうして!?
少し離れた場所に……
魔王城が見える!?
じいじに連れて行ってもらっても一時間はかかるのに……
人間のわたしの目にも見える場所にある!?
どうなっているの!?
「ルゥ。おはよう。ふふ。早起きね」
ばあばがドラゴンの姿で幸せの島に降り立った?
「ばあば? あそこに見えるのは魔王城なの!?」
まさか、じいじみたいに島を移動させたんじゃ……
「かなり揺れたでしょ? ヴォジャノーイちゃんみたいに上手くできなくてね。これ以上は近づけられなかったわ」
いや、島って簡単に動かせるものなの?
どうやったらそんな事ができるの?
「月海、ごめんね。お父さんがお願いしたんだ」
お父さんとマンドラゴラの子供達が、ばあばの持っているバスケットに入っている。
「マンドラゴラの子供達がね、寂しくて泣いていたのよ。かわいそうだから島ごと移動すればいいんじゃないかと思って。だって、魔王は魔王城にいればいいんでしょ?」
ばあば……
さすがドラゴン王だよ。
「後でウェアウルフ王に橋を作ってもらいましょ?」
橋?
五百メートルくらい離れているみたいだし……
確かに橋があれば簡単に行き来できるね。
「お父さん。これからは、いつでもすぐに会いに行けるね」
「月海……迷惑じゃない?」
「迷惑なんかじゃないよ。すごく嬉しいよ」
「新婚さんだから……邪魔にならないようにするからね」
新婚さん……!
恥ずかしいよ……
「魔王ったら、山積みの書類に全然手をつけていなくてね。ふふ。ルゥに会いたくて仕事が手につかないんですって」
ばあばが楽しそうに教えてくれたね。
お父さんと離れて暮らす事になって寂しかったけど、お父さんも寂しく思っていてくれたんだ。
でも、魔王の島の位置が変わっても大丈夫なのかな?
何も問題が起こらないといいけど。




