つがいの宴とお父さん~前編~
魔王城___
密蝋のロウソクの甘い香り……
薄暗く長い廊下を歩いて、じいじのいる砂浜に向かう。
ばあばとママとマンドラゴラ達も一緒だ。
今日は夕方から、つがいの宴が開かれる。
ばあばは、腰まで伸びた白い髪に金の瞳の綺麗な容姿をしている。
いつも人間の姿の時はギリシャ神話に出てくるみたいな白いワンピースを着ているんだよね。
ママは赤いドレスがよく似合っている。
いつも外にツンツンはねている髪がツヤツヤに輝いている。
綺麗だなぁ……
マンドラゴラ達も頭の葉っぱの付け根にリボンをつけていて、かわいい。
ご機嫌でソワソワしているみたい。
いつも裸足で暮らしているからハイヒールに緊張するよ……
ドキドキが速くなる。
外に出る扉の前に着いた!
「開けるわよ? ルゥ」
ばあばが魔術で大きい扉を開けると……
外はすっかり夕方になっている。
夕焼けが綺麗。
でも……
なんだか、違和感がある?
魔王の島全体に防御膜みたいなものが張られているみたい。
ザワザワしていた魔族達が一瞬静かになった後、歓声をあげる。
さすが魔族だ。
歓声だけで空気も島も揺れている。
「ルゥ……綺麗だ」
じいじが手を差し出してくれる。
じいじも正装しているんだ……
かっこいい……
ドキドキしながらじいじと手を繋ぐ。
「うわっ」
ハイヒールが砂にはまって動きにくいかも……
……え?
じいじに抱き上げられた?
うわああぁ!
お姫様抱っこだ!
いつもしてもらっているけど、ドレスを着ているからかな?
ドキドキする。
嬉し過ぎて顔が熱くなると、じいじが気づいて微笑んでくれる。
幸せ過ぎてクラクラしてきた。
興奮し過ぎて鼻血が出そう……
じいじに抱っこされて席に着く。
席に……
……あれ?
じいじの膝に座っているけど……?
うわっ……
魔族の皆が見ているよ。
恥ずかしい……
振り返ってじいじの顔を見ると満足そうに微笑んでいる。
うぅ……
膝から降りたいって言えない……
「あらあら、ヴォジャノーイちゃん? ルゥが困ってるわよ?」
ばあば……
ありがとう。
これで膝から降りられるよ。
「いつも、こうしている。ルゥは赤ん坊の頃から抱っこが好きなのだ」
わたしの髪を撫でながらじいじが満足そうに微笑んでいる。
じいじ……
確かに抱っこは好きだけど……
「そうだ! ルゥは抱っこが好きなんだ! 次はわたしに抱っこさせてくれ!」
ママ……
宴が始まるから……
「えぇ? ずるいよぉ。パパも抱っこしたいよぉ。うわあぁん!」
パパ……
泣かないで……
「あははは! 変わらないわね! 初めてルゥに会った時と同じだわ」
ばあばは嬉しそうだね。
「ルゥ? 魔王がどこからか見ているかもしれないわ? 魔王はルゥの事をそれは心配していたの。今のこの幸せな姿を見て……安心しているはずよ」
ばあば……
そうだね。
お父さんはわたしの為に天使にお願いまでしてくれたんだ。
今、幸せに暮らせているのはお父さんのおかげなんだね……
「お父さん……ありがとう」
泣いちゃいそうだ……
「ううぅ……」
あれ?
少し離れた小さな椅子でダディが号泣している?
どうしたのかな?
「ダディ? 大丈夫?」
「ううぅっ……はい。大丈夫です……」
大丈夫そうには見えないけど……
「もう、よいのではありませんか?」
じいじがダディに敬語を使っている?
どうして?
「……知っていたの? ヴォジャノーイ王……今は前王だね……」
ダディが泣きながらじいじと話している?
どうしたのかな?
「月海……」
え?
ダディ?
今、月海って?
どうして群馬でのわたしの名前を知っているの?
「ごめん……ごめん。ボクは……お父さんなんだ」
ダディがお父さん?
何の事?
「天使が……ルゥに会いたいっていう願いを叶えてくれたんだ」
天使……?
ウリエルが?
まさか……
ダディがお父さんだなんて……
でも……
信じられないけど、ダディの真剣な表情を見れば嘘じゃない事は分かるよ。
「わたし……ウリエルに酷い事を言っちゃった」
本当にお父さんなんだね。
でも、どうしてマンドラゴラになっているの?
ばあばが、お父さんをわたしの膝に連れて来てくれたけど……
「月海……ウリエルじゃないんだ。違う天使なんだ。 ずっと騙していてごめん。生き返ったって、なかなか言い出せなくて……」
お父さん……
生きていた……
「お父さん!」
お父さんの小さな身体を抱きしめる。
ずっと近くで見守っていてくれたんだね。




