ばあばと秘密の話
今回は、ばあばが主役です。
わたしが初めてヴォジャノーイちゃんに会ったのは、まだ魔王が生きていた時。
あの時ヴォジャノーイちゃんはヴォジャノーイ王だった。
いきなりドラゴンの島にやって来て、片っ端からドラゴンを倒していったの。
初めは驚いて言葉を失ったけど、だんだん笑えてきたわ。
最強の魔族のはずのドラゴンが簡単に倒されちゃうんだから。
そういえば、今のヴォジャノーイ王がそれを見て失神していたわね。
ドラゴンは傘下に入る種族がいなくても族長が『王』を名乗れる決まりがある。
それだけ強いはずなんだけど……
ドラゴン王のわたしの所まで来るとこう言ったの。
「ドラゴン王に訊きたい事がある」
笑っちゃったわよ。
訊きたい事がある態度じゃないもの。
でも、真剣な顔をしていたわ。
「異世界から転移して来た魔王様の病を治して欲しい」
ヴォジャノーイちゃんは本気で魔王を心配していた。
でも残念ながら魔王は魔素にかなりやられていて、もう手遅れだったの。
魔王には数回会いに行ったけど、会うたびに具合が悪くなっていった。
魔王はわたしにだけ話してくれたの。
自分の娘がいずれ聖女として転移して来て、その事に天族が関わっている事を。
ヴォジャノーイちゃん達にも娘が転移して来る事は伝えてあるけど、天族の力でこの世界に来る事は内緒にしているみたいだった。
ただでさえ、人間は魔族の食糧なのに大嫌いな天族に転移させられたなんて知られたら何をされるか分からないもの。
それに、魔王自身も天族に転移させられていた事を魔族に秘密にしていたしね。
魔王が亡くなって二年くらい経った時、ついに魔王の娘が転移して来た。
しかも本当に聖女の身体に憑依したと知った時は驚いたわ。
これで魔素に苦しむ事はなくなったのね。
天族はあきらかに異世界の人間に何かをさせたがっていた。
でも、その時のわたしには何も分からなかった。
嬉しくてすぐに会いに行ったわ。
魔族でさえ近寄らないくらい濃い魔素に包まれていたはずの死の島なのに……
たった一日で魔素が薄くなっていたの。
魔王に娘がいると分かれば何をされるか分からない……
そんな魔族達から守る為に、わざわざ魔素が濃い場所に隠そうとしたのかしら……?
「ルゥは、じいじのわたしに抱っこされるのが好きなのだ」
「そうだ! ルゥは抱っこが好きなんだ! 次はわたしに抱っこさせてくれ! 抱っこしたまま空を飛んでやるぞ?」
「えぇ? ずるいよぉ。パパも抱っこしたいよぉ」
ヴォジャノーイちゃんもハーピーもオークも幸せそうね……
魔王は、娘が聖女の身体に憑依する事を知らされていた。
でも聖女の浄化の力でこの死の島の魔素が完全に浄化できて、安全に暮らせるかは分からなかった。
魔素の苦しさを知っているだけに不安だったでしょうね。
魔族にも狙われる事になるでしょうし……
自分が生きている時なら守ってあげられるのに、娘が来るのは自分が死んだ後なんて……
だから、最恐の魔族と呼ばれるヴォジャノーイちゃんにお願いしたのね。
「これから……この世界にやって……来る……るぅ……みを……死の……島で……育て……」
魔王の苦しそうな最期の言葉……
その約束をヴォジャノーイちゃんはずっと守ってきた。
そのヴォジャノーイちゃんがルゥとつがいになるなんてね……
わたしには生き物に永遠に近い命を授ける力がある。
でも魔族には最初から長い命があるから使う事なんてなかった。
短い寿命の人間にも、この力を使う事なんてなかったから……
綺麗に咲いた花に使うくらいだった。
時期が来たらルゥに使おうと思っていたけど、ルゥは前世は人間として生まれ育ったから嫌がるかと心配していたの。
ヴォジャノーイちゃんもルゥには魔王から与えられた寿命以外は与えたくないと考えていたみたいだし。
でも『じいじとずっと一緒にいたいから長く生きていたい』なんて言われて……
嬉しくて泣きそうになっちゃった。
わたしが命を与えるとその時点で成長が止まるから、あと何年かしてルゥが安全に子を産める身体に成長したら術をかける事になった。
ルゥは今すぐにでもって言ったんだけど、ヴォジャノーイちゃんがルゥが出産で苦労しないようにって心配したの。
本当に大切にしてるのね……
大切にし過ぎてるわ……
ルゥは宴が始まってからずっとヴォジャノーイちゃんの膝に座らされているし。
言い寄られないようにしたいのは分かるけど……
先が思いやられるわね……
でも、まぁ……
幸せそうで嬉しいわ。
なぜか魔王もマンドラゴラになって生き返ったし。
でも、天族が理由もなくそんな事するかしら?
ウリエルは異世界から転移させただけみたいだし、ベリアルは違うだろうし……
わたしは、魔王を転移させた天族とルゥが聖女に憑依すると教えたのは同じ天族だと思っていたの。
でも、今回の事で勘違いだと分かったわ。
何の目的で?
一体誰が……?
人間に、これだけ深く関わっているとなるとかなり上位の天族なのかも……?
まぁ……
魔王も喜んでるしルゥも魔素に苦しめられないし、いい事ばかりだけど。
考えても仕方ないわね。
何かあれば守ってあげればいいんだし。
それにルゥも赤ん坊の頃からヴォジャノーイちゃんに教育されてるから強い子になったし。
赤ん坊のルゥに剣を持たせたり、精霊と契約させた時にはさすがに呆れたけど……
ヴォジャノーイちゃんは、ちょっとズレてるところがあるからね……
これからは幸せの島に毎日遊びに行くのもいいわね。
ふふ。
楽しみだわ。




