表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/402

誰かに決められた未来だとしても

 きっと神様が……

 今世では幸せになれるように、わたしをこの異世界に連れて来てくれたんだ。

 そう思っていた時もあった。

 でも、それは合っていて間違ってもいた。


 わたしがこの世界に来た理由は、ふたつあったんだ。


 ひとつはお父さんがわたしに幸せを与える為。

 もうひとつは天使の暴走を止める為。


 異世界の人間をオモチャにして遊んでいた天使を、わたしは絶対に赦さない。

 

 ピーちゃんを助けたい。

 助けなくちゃいけないんだ。

 もう、こんな辛いループは終わりにするんだ。


 でも、もしそれでピーちゃんが死んでしまったら?

 わたしの子供として産まれてくれば勇者にはなるかもしれないけど、絶対に魔族とは敵対させない。

 魔族と仲良く暮らしていくんだ。

 今まで通り、幸せの島で穏やかに暮らしていける……

 

 でもこのループを止めるにはピーちゃんを勇者にした天使を殺さなければいけない。

 

 ピーちゃんは何度も死んでいる。

 天使が死んだ瞬間にピーちゃんも死んでしまうかもしれない。


 誰にも分からない。

 その時にならないと……


「ピーちゃんは……死んじゃってもいいの? わたしは……嫌だよ」


 絶対に嫌だよ。

 何度も勇者にされて苦しめられて……

 そんな死に方は絶対にダメだよ。


「イイノ。ピーチャンネ、モウツカレチャッタノ」

 

 疲れた……?

 ピーちゃん……

 生きていて欲しいって思うのはわたしのわがままなのかな?

 ハーピー族長みたいに死を選びたいの?

 一緒に幸せにはなれないの?


「嫌だ……嫌だよ……ピーちゃん……一緒に生きよう?」


 溢れ出る涙が止まらない。

 こんなの嫌だよ。

 こんな辛い思いをしたまま死んじゃうなんてダメだよ。

 

「ヒメサマ、アリガト。コノ、セカイニキテカラ、イマガ、イチバン、シアワセダヨ」


 ピーちゃんを抱きしめて泣いていると、じいじが苦しそうに口を開く。


「これ以上……この空間には……いられない。やるぞ」


 じいじ……

 天使を殺すんだね。

 もうピーちゃんとはお別れなの?

 わたしはピーちゃんに何もしてあげられないの?


「待って……じいじ」


 そうだよ。

 わたしは異世界から来た。

 この愚かな天使を止める為に。

 もう、この世界に来る転移者はわたしで最後にするんだ。


 わたしがやるんだ。

 異世界の人間はオモチャじゃないんだって全ての天使に知らしめるんだ。


「……わたしがやるよ」


「ルゥ……天族殺しは重罪だぞ?」


 じいじはわたしの代わりにやってくれようとしているんだ。

 でもね……

 わたしの罪を被ってもらおうなんて思わないよ。

 これはわたしが、しなければいけないの。

 これで全てが終わるんだ。

 これで転移者は現れない。

 ピーちゃんみたいに苦しめられる転移者がこれ以上増える事はない。


「天使……お前はピーちゃんを傷つけた。罪のない異世界の人間達をオモチャにして遊んで傷つけた。わたしは最後の転移者として、お前を殺す」


 魔術は使えない。

 力を貸してくれた精霊に迷惑がかかるかもしれない。

 

 生まれ持っている光の力なら使えるかな?

 それなら誰にも迷惑がかからないよね。


「じいじ……ごめんね。わたし……いつも幸せをもらってばかりで何も返せなかった」


 魔族のじいじにはこれから使う光の力は強過ぎる。 

 これでお別れだ。

 前世では、お父さんにもお母さんにもおばあちゃんにも置いて逝かれた。

 今までは残された側の気持ちしか分からなかったけど……

 今なら分かる。

 大切な存在を置いて、先に逝かなければいけない気持ちが。

 ごめんね。

 本当にごめん……


 じいじに抱きつく。

 もう……

 これで最後だ。

 ベリアルを殺して、わたしが生き残ったとしても天使に裁かれるだろう。

 もう二度と会えない……

 

 じいじの唇に口づけをしたまま涙を流す。

 ひんやりした唇が震えているのが伝わってくる。


「さよなら……」

 

 腕輪を壊せば幸せの島に帰れるはずだ。

 じいじの腕輪を強く握ると……

 よかった。

 簡単に壊れたよ……

 

「ルゥ!」


 わたしを呼ぶじいじの声が空間に響いた。

 そして、じいじの姿は見えなくなった……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ