ルゥと天使と勇者~前編~
つがいの宴、前日___
いよいよ明日だ。
今からドキドキしている。
じいじは防御膜に入っていればいいって言っていたけど……
何か危ない事があるのかな?
今日はウェアウルフ王達とグリフォン王達が昼から遊びに来てくれている。
マンドラゴラ達は王様達が大好きだから、ずっと離れないんだ。
かわいいな。
今もガゼボでウェアウルフ王が作ってくれたツミキで遊んでいる。
穏やかだな。
ケルベロス王もイフリート王も優しかったし、ひとまずは安心かな?
「何だ? この匂いは?」
ウェアウルフ王が何かに気づいたみたい?
匂い?
いつもと変わらないけど……
「これは……まさか……天族か?」
グリフォン王も様子がおかしい?
「姫様! 急いで家に入ってください!」
魚族長が波打ち際で大声で叫んでいるけど……
何?
天族?
ウェアウルフ王が慌ててマンドラゴラ達をバスケットに入れて、わたしを抱き上げる。
家まですごい速さで運ばれた。
ずいぶん慌てているけど、どうしたんだろう?
天族って……?
天使っていう事?
魔族がいる世界だから、天使もいるのかな。
リビングに入るとパパが震えている。
「パパ? 大丈夫?」
「ルゥ……怖いよぉ」
天使って怖いの?
魔族だからかな?
「家に入って来た気配がするぞ!」
ウェアウルフ王が叫んだ。
天使が家に入って来たの?
何か用でもあるのかな?
魔族達が殺気立っている。
良くない事が起こるの?
まさか、魔族を滅ぼしに来たとかじゃないよね?
魔族は皆優しいのに……
「来た!」
グリフォン族の従者が叫んだ。
本当に天使なの?
あれ……?
「ピーちゃん?」
入って来たのは……
ピーちゃんだよ?
「シームルグよ。何故だ? 天族の匂いがするぞ?」
ウェアウルフ王がピーちゃんに尋ねている。
ピーちゃんから天使の匂いがするの?
聖獣だからかな?
でも今まではそんな事を誰も言わなかったよね?
「……ピーチャン……コワイヨ……」
ピーちゃんが震えながら泣いている?
どうしたんだろう?
「ピーちゃん? 大丈夫?」
泣いているピーちゃんを抱きしめる。
確かにいつもと違う感じがする?
「ピーチャン、モウ、シニタイヨ……ヒメサマ」
ピーちゃん?
死にたいって……
「何があったの? 話して?」
震えている……
怖い目に遭ったのかな?
「ピーチャン、カミサマニ……ドウシタライイノ?」
神様?
天使じゃなくて?
「シームルグよ。そろそろ本当の事を話したらどうだ?」
じいじが、お出かけから帰って来た。
本当の事?
いつもはぐらかされていたけど、確かに何か隠していたよね。
何だろう?
「……ピーチャンノコト、キライニ、ナラナイ?」
ピーちゃん?
どうしたの?
前も言っていたけど……
「嫌いになんかならないよ? むしろ心配だよ?」
「ピーチャン、ホントハ、イセカイノ、ニンゲンナノ。ニホンジンナノ」
え?
日本人?
日本……
久しぶりに聞いた。
ピーちゃんも転移者だったの?
でも鳥だけど……?
「ピーチャン、ナリタクナイノニ……ユウシャニナルノ。シネナイノ。ナンカイモ、イキカエルノ」
勇者?
死ねない?
どういう事?
「おい! 鳥、お前……族長の鳥だった時からなんかおかしかったよな!? 何なんだよ?」
慌てて帰って来たママがピーちゃんを問い詰めている。
「ウゥ……カエリタイ……ニホンニ……」
ピーちゃんが泣き崩れたけど……
どういう事なの?
ピーちゃんが勇者?
出産の手伝いをするんじゃなかったの?
それに、日本からの転移者って……
……!?
何?
この気配。
部屋の隅に妙な空間の歪みを感じる。
魔族の皆が一斉に殺気立つ。
「コワイヨ……」
ピーちゃん……?
怖いものが来るの?
部屋が光の眩しさで真っ白になった。
目が開けられない……
何?
何が起こっているの?
「……貴方が勇者ですか? そして貴女はわたしが転移させた人間ですね」
誰?
なんとか目を開けると……
いつの間にか目の前に誰かが……
え?
天使?
天使がいる。
真っ白い綺麗な翼の生えた天使?
金の長い髪に金の瞳……
絵本や漫画に出てくるのとそっくりだ。
胸が……
ドキドキする……?
……?
前にどこかで……
そんなはずないよね。
どうなっているの?
天使がわたしを転移させた?
お父さんの最期の力じゃなかったの?
「わたしはこの時を待っていました。わたしが異世界から人間を呼び寄せ、堕天使ベリアルを倒す時を……」
堕天使?
人間を呼び寄せる?
どういう事?
「わたしは大天使、ウリエル。堕天使ベリアルを倒す為に、遥か昔から異世界の人間を何人も転移させてきました。そして今、我々はベリアルに限りなく近づいています」
何を言っているの?
堕天使?
何人も転移?
「シームルグよ。ベリアルに勇者にされてから、死んで鳥の姿になりまた勇者になるという苦痛を繰り返しているようですね?」
ピーちゃんが震えている。
「カミサマ、チガウノ? ベリアル、ダレ?」
……神様?
神様……
胸がドキドキする……?
「ベリアルは己を神と言ったのか……愚かな。ベリアルは堕天使です。天界を追放されたのです」
天界を追放された?
何か悪い事をしたのかな?
「カミサマ、チガウノ?」
ピーちゃんは騙されていたのかな?
「ベリアルは異世界から人間を転移させては苦しめ、その姿を見ては快楽を覚える堕天使なのです」
人間を苦しめる?
ピーちゃんも苦しめられているの?
「ピーチャン……モウ、オワリニシタイヨ」
「勇者になるループを止めるにはベリアルを倒すしかありません」
勇者になるループ?
どんな酷い目に遭ってきたの?
「わたしは、以前この世界の魔王になった人間を転移させました。その前はニヘイという花火師でした。その前にも何人も転移させてきました。そして今、貴女を転移させたのです。貴女にならベリアルを倒す事ができるでしょう」
お父さんを?
二兵衛?
花火師?
もしかして、ハーピー族長の……?
「……何を言っているの? お父さんを転移させた……? 勝手な事を言わないでよ! お父さんがいなくなっておばあちゃんがどれだけ苦しんだか! 天使がやる事なの!?」
ふざけないでよ!
どれだけ寂しくて辛かったか……
お父さんだって慣れない異世界で辛かったはずだよ。
「全てはベリアルを止める為なのです。今ベリアルを止めなければ異世界から人間を転移させ苦しめ続けるでしょう」
は?
何を言っているの?
「自分は違うっていう口ぶりだね? やっている事は同じでしょう!?」
「……」
ウリエルが黙ったね。
でも反省している感じはない。
わたしは赦さない。
ウリエルもベリアル……? も同じだよ。
何も変わらない。
わたしとおばあちゃんから、お父さんを奪ったんだ!
皆を苦しめたんだ!
絶対に赦さない!




